A1-5 俵藤太伝説の竜女
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「俵藤太秀郷 至竜宮 宝ヲ請賜体」 「二日町 石川屋」
絵師:未詳 判型:大々判墨摺絵(山車絵)
出版:文政頃
所蔵:立命館ARC 作品番号: arcSP02-0386.【解説】
仙台の山車祭の際、出版された各町の山車絵である。俵藤太の百足退治伝説を題材にした作り物である。
百足退治伝説と次の通りである。近江国瀬田の唐橋に大蛇が横たわって人々は通れなかったが、俵藤太はその上を平然と通って行った。するとその大蛇は美しい娘に姿を変えて、自分は龍神の一族であると告げ、大蛇を平然と踏みつける俵藤太の度胸を信じて頼みたいことがあるといい、俵藤太に自分たちの一族と敵対関係にあって、三上山に住む大百足の退治を依頼した。俵藤太は、みごと大百足の眉間を射て、見事成敗した。
本図に描かれた、作り物のタイトルは画中に「俵藤太秀郷至竜宮寶請賜體」とあり、その後、藤太は龍宮に招待され、龍女からお礼として尽きることのない米俵やその他の宝を貰っているところである。
俵藤太は竜宮に連れてこられ、玉手箱を持ち帰る浦島太郎と同様の経験をしたのである。『百足退治伝説』において龍女は大蛇の姿となって登場する。そして龍神一族を名乗る。この龍女は人間の姿で描かれることもあれば、下半身が尾の長い蛇の半人半蛇の姿で描かれることもある。『百足退治伝説』においては、龍女が、中国伝来の空を飛び角生えた竜の姿で語られることは少ない。龍神一族は蛇の姿をしていたと考えられる。
龍神一族の住んでいた琵琶湖はある種の異国と言える。この異国において龍女の立ち位置は、神の娘のような特別な肩書や血筋があるわけではない。ただ一族の危機を救ってくれた俵藤太に対し尽きることのない米俵や、宝(本絵だと寶)を送ったのだから異国においても権力はある人物だと伺える。また、本絵をみても龍女の右側に給仕のようなものが控えていて、龍女自体は高い位置にいるところからも一族でも重要な立ち位置にいる人物であることがわかる。
またその後、俵藤太が平将門を打ち取る際には、龍神一族の助力のより、平将門の弱点を見破り討伐を成し遂げた。神の加護を受けて遠征や討伐が成功する例は古代にもある。その際に受ける加護というのはアマテラスの加護である。神武天皇の神武東征の際にも、神功皇后の三韓征伐の際にも、両者が受ける加護はアマテラスの加護である。ここにアマテラスと龍女の共通点がみられる。それは高天の原や竜宮という異国の住人であり、そこの統治者であること。他者に加護を与え、一定の成果をもたらすことができるということ。ただ、龍女は浦島をもてなした際に逢瀬をしたとされている。この点が処女神アマテラスとは異なる点である。ただ、また龍女は子を産んでいない。子を産まないという点から龍女または乙姫は処女神として受容されつつあるように思える。
この国の最高神アマテラスと同じような要素を持つ異国の竜女。彼女もまた異国で最高神として変身しつつあるのなら、日本における神的世界では女性が最高神である方が受容されやすいといえる。
参考文献
朱鷺田祐介 『海の神話』 株式会社新紀元社 2006年(幡)
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