A2-4 大力伝授
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「古今姫鑑」 「大井子」
絵師:月岡芳年 判型:大判錦絵
出版:明治8年(1875)~明治9年(1876)
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcUP4230.【解説】
「古今姫鑑」(「古今日女鑑」・「古今比売鑑」)は、芳年が平安時代から江戸時代にかけて活躍した女性の半身像を描いた揃物である。現在、「紫式部」「鞆絵女」「大井子」「明智秀吉妻」「浅岡」「薄雲」「秋色」「千代女」「松島局」の9点が確認されている。
本作は、鎌倉時代の『古今著聞集』巻10「相撲強力」に登場する近江国高島郡石橋の大井子が題材である。相撲の節会に呼ばれた越前国の佐伯氏長は、上京途中に水汲み中の大井子を見かける。氏長は、大井子の美しさに背後から手をのばし悪戯を試みるが大力によって脇に腕を挟まれ返り討ちにあう場面が描かれる。また、背景にはその後に氏長が大井子のつくった強き飯(おにぎり)で鍛えられ上京し、相撲に勝利したことが書かれている。
一方、『古今著聞集』では氏長が相撲に勝利する描写がなく、大井子に鍛えられ上京する場面で終わっている。本作と多少異なった内容になっている。また、ある民話では氏長が相撲勝利の褒美を受け取ったものや相撲の節の成績が認められて宮使えするものも存在する。このような、大井子のはなしの揺れは説話の内容が口承によって伝えられてきたためだろうか。(勝)【翻刻】
大井子が水口の石とて彼郡に今も尚ある
故事あれど文長ければこゝに漏しり。
佐伯氏長一歳相撲の節に召されて都より登らんと志し
●●●て近江国なる石橋宿に来かゝりけるに道の傍に
美麗女の水汲て頂き行を見て氏長戯れに女の腕の
●●の手をさし入れたるに彼の女うち咲(えみ)て少も
もて放れたる景色もなく氏長が手を脇に
挟み歩行をぞせんかたなくをめ/\として
従ひ行ぬとある家に入りて水をおろし
手を迦してうち咲ひ氏長を顧て
君々如何なる人にてかくはしにぞと
いふに
近勝り
して
堪がたく
覚へ
けり僕は
越前
国より
相撲に
召れて
参るなりと
語るを聞て女の云
君が力にて王城に
登り給ふとも果散
●志●●て見参の
志るしに養ひ奉らん
とどめて其夜より
強き飯を握りて
与るに氏長始めは
かみ破がたかりけるが
七日程の内に漸々食破けり
●て都に登り相撲に
勝を得たり此女は高島の
大井子とてあやしきまで力
つよき女にてありけるとぞ【参考文献】
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西尾光一・小林保治校注『新潮日本古典集成(第59回)古今著聞集』(新潮社,1983,p460)
中島千恵子『近江の民話』(未来社,1980)
滋賀県老人クラブ連合会『続近江むかし話』(洛樹出版社,1979,第7版) -