5.0 はじめに

 浄瑠璃は大きく古浄瑠璃と新浄瑠璃(単に「浄瑠璃」という)に分ける事ができる。浄瑠璃の最初は、近松門左衞門(1653~1724)と竹本義太夫(1651~1714)とが提携した「出世景清」(初演、1685)とされている。当文庫には、稀書複製会のもの以外には古浄瑠璃はないので、浄瑠璃のみを扱うことにする。浄瑠璃の歴史等については、鳥越文蔵(1)「浄瑠璃略史」および『日本古典文学大辞典』(横山正記)等が参考になる。

 浄瑠璃の本には、丸本と床本とがある。丸本は、その物語の全てを記載したものであるが、床本は、太夫が1回の出演で語る部分のみを大きな文字で書かれているものである。丸本は、全て半紙本であるが、1つの物語を1冊に納めるのが原則で、半丁の行数を7行から12行にして、全体の丁数の調整を行っている。

 日本で最初にノーベル賞を受賞(昭和24(1949)年)した物理学者の湯川秀樹博士(1907~1981)の「浄瑠璃の不思議さ」(2)という随筆に下記の一節がある。

浄瑠璃はたんに書かれた文学としてだけ鑑賞されるべきものではなかった。作者はそれが節をつけて語られ、それにともなって人形が動くことを意識していたのである。したがって作者の側としては、節をつけて語られることによって、生きてくるような文章を作らなければならないと同時に、節をつける側では作者の意図するところを十分表現するような節まわしを考え出し、選び出さねばならない。

 この文章によって、浄瑠璃というものの本質がわかるような気がする。ここで浄瑠璃の本を4点紹介するが、これら4点の梗概は、『日本古典文学辞典』に記載されている。当文庫の点数は、丸本155、床本10である