G02声色を楽しむ

『声色当リ狂言』
English Commentary
編者:歌舞伎山人 絵師:国芳ヵ 版型:中本1冊
成立:弘化5年(1848)江戸
資料番号:arcBK03-0004 所蔵:立命館ARC.

【解説】
 本書は、声色を愛好する庶民に向けて出版されたせりふ稽古用の本である。前半は、通常の声色せりふ本と同じく、いわゆる名台詞を当時上演されていた演目から抜出して、その役に扮した役者別に1丁単位で並べている。役者名とともに、定紋、位付、家号、俳名も記述しているのは、その役者に関する情報をハンディに提示していて便利である。
 その台詞の見開きの次には、声色のイメージが使えるようにその役に扮した役者の似顔が錦絵摺で掲出されている。自分で舞台に立つことはできない庶民が、どのように歌舞伎を愛好して、擬似的に自分が役者になった気分を味わったかを知ることができよう。
 後半は、この時期に江戸の劇場に出演していた役者達を、1行か2行で端的に評価した文章を並んでいる。たとえば、八代目市川団十郎は、台詞は「曽我五郎時宗」が掲載されているが、評文には「お家がらとはいひながら当時ひれかついて りつぱにつかわれる鯉しがし しんみりとした御座しきにはむかない」とあり、全く五郎とは関りなく、魚の見立ての短評になっている。外の役者もすべて魚尽くしの見立て評文が付く。(a.)