H12早替り(お染久松)

「娘於そめ」「でつち久松」
絵師:国芳 判型:大判/錦絵
上演:嘉永3年(1850)1月25日江戸・河原崎座
外題:「お染久松色読販」
資料番号:arcUP2929 所蔵:立命館ARC.

【解説】
 油屋お染と丁稚久松とを、三代目岩井粂三郎(後の八代目岩井半四郎)が一人で演じている場面を描いた作品。この演目は、通称「お染の七役」とも呼ばれる。主役である油屋お染(町娘)を演じる女方の俳優が丁稚久松(若衆)、久松の姉竹川(奥女中)、お染の義母貞昌尼(後家)、土手のお六(悪婆)、お光(田舎娘)、お作(百姓女房)の七役を早替りによって全て一人で演じる。この絵ではお染(女方)と久松(立役)が描かれているが、実際の演技では、花道ですれ違いざまに女方であるお染から立役の久松に一瞬で変わるのである。
 このように、一人の俳優が同じ場面でいくつかの役を迅速に替わってみせることを「早替り」という。短い時間に替わることが眼目であるから、衣裳に帯を縫い付けるなどの工夫がはらわれている。ときには吹替え(代役のこと)を使って効果を挙げる方法もとられる。ちなみにこの絵の演目である「お染久松」でも吹替えが使われている。早替りの流行した文化・文政期には、この早替りを見せ場とする「お染の七役」「四谷怪談」などが生まれ、変化舞踊も数多く演じられた。近代以降は、上方の歌舞伎にこの手法が伝えられ、東京ではケレン味のある舞台を嫌う傾向にあったが、三代目市川猿之助らの努力により、こうしたエンターテインメント性も歌舞伎の魅力として再評価されるようになっている。(坂.)

【用語説明】
お染久松色読販ケレン