B3 見顕された鬼童丸.

『燿武八景 市原野晴嵐』

絵師:歌川国芳 判型:大判錦絵
出版:天保7・8年(1836~1837)
所蔵:舞鶴市糸井文庫  所蔵番号:01ル65.

【解説】
 本作は、待伏せをする鬼童丸が、牛の皮の中に隠れていたにもかかわらず渡辺綱に見顕され、胴腹に矢を射られたあと、飛出し、遮二無二頼光を目がけて突進する場面である。肌は青く変色し、髪は逆立ち、口は大きく裂け、目は充血し、まさに鬼のようである。画面は、右上から強風が吹いて市原野に茂る草を薙ぎ、頼光一行に風雲急を告げる。四天王の内、坂田公時、碓井貞光、卜部季武が三人がかりで引留めようとするが彼らを上回る体躯の鬼童丸はそれをものともせずに、頼光に挑みかかる。風上には矢を射た綱や馬上の頼光が風上から待ち受けている。

 本図は、国芳の「燿武八景」の内、「市原野晴嵐」を描くもので、強風が渦巻く草むらの表現と相俟って効果的である。また、市原野の鬼童丸といえば、牛の皮が付き物のように描かれるが、本図では、どこにも描かれておらず、むしろ鬼童丸自身が牛皮をかぶっている間に牛と融合してしまったかのようだ。(池a).