C5 英雄桃太郎

『昔話桃太郎伝』

作者:南杣笑楚満人(作)、樹下石上(画) 判型:中本
出版:文化2年(1805)
所蔵:立命館ARC  所蔵番号:hayBK03-0857.

【解説】
桃太郎は公時、弁慶の幼少期とは異なり、桃から生まれるという異常出生を遂げているにもかかわらず周りに受け入れられ最初から「境界」の内側に存在していた。近代になっても桃太郎は童謡、昔話で語られ、日本が軍国主義であった時代ではその思想を象徴する存在として頭に日の丸印の鉢巻きをつけていた。そして芥川龍之介によるパロディー「桃太郎」であったり違った目線からみられることもあり、日本の英雄説話として長きに渡り多くの人に知られてきた。
 「桃太郎」は桃から小さ子が誕生するという異常出生譚とされる。中国には「小さ子」物語が多く、しかも小童の出生が果樹や果実を母胎とするものもある。また、「(桃太郎の)桃が川から流れてきた」という点も異常出生譚の一つとして考えられる。古代にはしばしば子供が川に捨てられ流され、川で水死した子供の亡霊が河童や川の神となるという言い伝えがあった。しかし、例外的に拾われて助かるものもいた。川に流され、偶然拾われて育てられたものは、やがて英雄・偉人になるという話は世界中にある。そう考えたとき、桃太郎は桃から生まれてきたということだけでなく、河を下ってきておばあさんに拾われたということからも特殊な人間であったと言える。つまり、物語の始まる前にすでに「境界」を超えていたのだろう。(宮)