D1-1 境界としての一条戻橋.

『都名所画譜』「一条戻橋」

著作:仮名垣魯文(序)、歌川芳春(画) 判型:中本
出版:慶応2年(1866)序
所蔵:立命館ARC  所蔵番号:arcBK03-0018.

【解説】
 一条堀川に架かっていた一条戻橋を題材とした名所図会のなかの一枚である。戻橋という名前の由来については、『撰集抄』において、清蔵という僧が、この橋の上で父、三善清行の葬列と出会い、彼を蘇生させたということに基づくとしている。名前の云われに関する伝説のように、この橋は、古くからさまざまな怪奇譚の舞台となっていた。
 『平家物語』剣の巻においては、源頼光の使者として一条大宮に赴いた綱が、この橋の東の橋詰において鬼が化けた美女に出会い、応戦し、その片腕を切り落とすが、後日叔母に化けた鬼に取り返されるという話が伝わっている。
 そもそも橋というのは、ムラとムラの境と考えられていた川に架かり、自分のいる空間とヨソの空間をつなぐものであった。また、古くから日本には穢れのような悪しきものは自分たちの空間のヨソから入ってくるという考えがあり、そのような穢れの侵入を阻む強いモノが橋にはいると考えられていた。さらに、平安京の時代の一条戻橋はちょうど大内裏の丑寅(鬼門)の方角に位置しており、一条大路という都の境界である通りに位置してもいた。つまりそのことは、一条戻橋は都のヨソからの穢れなどが侵入してくる場所であり、同時にその侵入を防ぐための重要な場所でもあるということを意味していた。このような理由によって、一条戻橋は多くの怪奇譚の舞台となったのだろう。(豊).