A3-3-2 「万ゝ両札のつき留 」- 富くじ
作品名:「万ゝ両札のつき留」 出版:不明 絵師:玉斎 判型:大判錦絵 所蔵:国立国会図書館(NDL-458-02-058、NDL-458-02-057) 富くじとは、現代でいうところの宝くじに相当する存在である。近世の史料上では「富突」や「富」と表記される。 このうち、幕府が財源確保を目的とする寺社助成を名目に興行を許可したものを「御免富」といい、それ以外を「隠富」または「陰冨」といった。 前者は江戸・東京・大阪を中心とする幕府直轄地の寺社境内で興行されたものが多く、庶民はあらかじめ販売されている紙製の富札を購入し会場に向かう。 そして、富札同様に番号が書かれている木札(富駒)が入った、富箱という大きな木箱の穴を、長い錐で突き上げ、刺さった札の番号が当選となる。 通常100回ほど突き上げられるが、一等賞は百両や三百両と、当時の人々が熱狂したのも納得の大金である。 後者の「隠富」「陰冨」は、高価な御免富を購入できない庶民を対象に、公式の富くじの当選結果の予想を賭事として、安価に販売されていた。 もちろん「御免富」でも一枚の富札を複数人で共同購入する割札が存在したが、「隠富」「陰冨」は文単位で購入できたため、こちらの方は手頃であった。 本作品は正確な成立時期がわからず、作者の玉斎が幕末から明治初期にかけ錦絵を残していることから推察するばかりである。 作品上部の人の台詞に「一の富大当たり」とあり、おそらく一等賞の発表がされている場面なのだろう。 購入者と思われる手前の人々は、富札を片手に口々に「当りは拙者で御座る」「おさむらいさま そこをどいてくださいまし」と叫び、会場の興奮が窺える。(内田) 参考文献 滝口正哉『江戸の社会と御免富』、岩田書院、2009年

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