A1-2-2 冨士旗竿

作品名:「冨士旗竿」「早竹虎吉」
出版:安政4年(1857)2月
絵師:歌川国芳
版型:大判錦絵
所蔵:MFA Boston (MFA-11.21923)

この作品は、『曽我物語』の著名な説話「富士の巻狩」に基づいている。源頼朝が建久4年(1193)に大勢の家来を集め、富士山の裾野で巻狩という神事祭礼や軍事訓練のために行った狩猟、いわゆる富士の巻狩のさなかに、曽我十郎祐成と曽我五郎時致の兄弟が父の敵である工藤祐経を討った「曽我兄弟の仇討ち」が発生した。この仇討ちは、巻狩に参加した武士に鮮烈な印象を与え、話が受け継がれ、次第に脚色を加えながら能や浄瑠璃、歌舞伎で演じられるようになった。そこから伝統演目の曲芸化を盛んに行った早竹虎吉によって曲芸として演じられた。
下で三味線を弾きながら方で旗竿を支えているのが早竹虎吉である。これはいわゆる曲差し(肩だけで竿を支え、三味線を弾く芸)で、しなった竿先には子方の徳蔵が「大」の字を作ってぶら下がっている。背景で旗が動いていることからも見て取れるように、風が吹く中で曲差しをするには高度な技術が必要であり、早竹虎吉が優れた曲芸師であったことが分かる。背景に富士山を描くことで、「富士の巻狩」の場面を演出している。(甲斐)

参考文献
富士宮市『富士の巻狩と曽我兄弟の仇討ち展』「富士宮市HP」(参照2021-02-09)
川添裕『大江戸カルチャーブックス:江戸の大衆芸能 歌舞伎・見世物・落語』、青幻舎、2008年
国立民族学博物館『見世物大博覧会』、2016年

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