A1-2-3 石橋(しゃっきょう)

作品名:「大坂下り」 「此所所作事」「早替り」「早竹虎吉」「(石橋)」
絵師:芳晴
判型:大判錦絵
出版:弘化4年(1844) 
所蔵:MFA-Boston(MFA-11.21577)

この作品は、能や歌舞伎で親しまれた「石橋(しゃっきょう)」が曲芸化されたものを描いた作品である。日本の曲芸は単に身体運動を見せるものではなく、この作品のように伝統演目を曲芸化したものが多い。
能の石橋という演目の内容は以下の通りである。中国・インドの仏跡を巡る旅を続ける寂昭法師が中国の清涼山(しょうりょうぜん)にある石橋付近に着くと、ひとりの樵の少年が現れる。少年は寂昭法師と言葉を交わし、橋の向こうは文殊菩薩の浄土であること、この橋は狭く長く、深い谷に掛かり、人の容易に渡れるものではないことなどを教え、ここで待てば奇瑞を見るだろうと告げ、姿を消す。寂昭法師が待っていると、橋の向こうから文殊の使いである獅子が現われ、香り高く咲き誇る牡丹の花に戯れ、獅子舞を舞ったのち、もとの獅子の座、すなわち文殊菩薩の乗り物に戻る。そのため、この絵には獅子が描かれているのである。
下で青竹を足裏で支えているのが早竹虎吉である。白獅子に扮している早竹虎吉が赤獅子の子方二人を持ち上げている。持ち上げられているのは子方の若太夫徳蔵と福松であると考えられる。これは足芸(あしげい)や足曲持(あしきょくもち)と呼ばれる日本曲芸が得意とした技のひとつである。曲持ちとは、色々なものを持ち上げる芸のことで力持ちとも言い、酒樽や俵、臼などを持ち上げた。これらの曲持ちは重いものを数時間持ったままであったり、疾速に歩いたり、足に乗せて左右前後に廻したり、腹の上にもうひとりの男が登り、さらにその男が俵を持ったりと多種多様であった。(甲斐)

参考文献
川添裕『大江戸カルチャーブックス:江戸の大衆芸能 歌舞伎・見世物・落語』、青幻舎、2008年
宮尾與男『図説:江戸大道芸事典』、柏書房、2008年
国立民族学博物館『見世物大博覧会』、2016年
the能.com『石橋』「演目事典」、株式会社カリバーキャスト(参照2021-02-09)

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