-
-
作品名:「東海道五十三対」「土山」
出版:弘化2年(1845)
絵師:歌川国芳
判型:大判錦絵
所蔵:MFA Boston(MFA-11.25048)伝承にまつわる妖怪の一人として、次は『鈴鹿御前』を紹介する。鬼女の中でもトップクラスに有名なものが、『鈴鹿御前』である。本図の真ん中に位置するのが『鈴鹿御前』、その左にいるのが鈴鹿山の鬼神、右にいるのが坂上田村麻呂である。鈴鹿御前を、鬼女として紹介したが、そうではない場合もある。鈴鹿御前は、天女であったり、鬼女であったり、盗賊であったりする。そして、その名も「鈴鹿姫」「鈴鹿大明神」「鈴鹿権現」「鈴鹿神女」などと多様なものとなっている。文献によっては、鈴鹿山の盗賊立烏帽子とされていたり、第六天魔王の娘であるとも言われている。
多くの文献がある中で、今回は『土佐お化け草子』より、鈴鹿御前を解説する。鈴鹿御前は室町時代後期に登場した伝説である。鈴鹿御前は昔、都へと奉納される年貢や供物などを奪う盗賊として悪行を成していた。討伐するため、坂上田村麻呂が鈴鹿御前のもとへ向かったが、二人は恋に落ちそのまま子を設けてしまう。その後、鈴鹿御前は清い心を持ち、過去の自分と同じく悪鬼として悪事を働いていた鬼たちを退治し、その後天命により25歳で命を落とす。しかし、坂上田村麻呂が亡くなった鈴鹿御前を取り戻すために、冥土へと乗り込み、その魂を現世まで連れ戻す。そして、二人は夫婦仲良く幸福な暮らしを送る、という話である。
鈴鹿御前の立場は、文献によって大きく変わる。『菅江真澄遊覧記』にみえる田村麻呂伝承においては、悪路王の配偶者とする伝承と、田村麻呂の配偶者とする伝承の両方がある。鈴鹿御前は妖怪の中でも、正体や由来に多くの説がある。(小山)
参考文献
作者不詳『土佐お化け草子』、江戸時代
菅江真澄著 ; 内田武志, 宮本常一編訳『菅江真澄遊覧記』、平凡社(平凡社ライブラリー 356)、2000年
B3-7 鈴鹿御前