B2-2 人魚
-
-
作品名:「観音霊験記」「西国順礼三拾二番」「近江観音寺」「人魚」
出版:安政6年(1859)
絵師:歌川豊国〈3〉、歌川広重〈2〉
判型:大判錦絵
所蔵:MFA Boston(MFA-00.1964)人魚は水中に生息していたとされる人面魚身の妖怪である。日本において人魚の出現は不吉な予兆とされていたが、人魚が不老長寿をもたらしたという八尾比丘尼伝説のような伝承も存在する。八尾比丘尼伝説の中で最も有名なのは若狭国小浜(現在の福井県)に伝わるもので、漁師がとった魚の頭が人に似ており、珍しいので皆にふるまったところ、気味悪がり皆口にしなかったが、一名だけ肉をもって帰り、その娘が食べてしまったが、その娘は若く美しいまま、年を取らなかったと伝えられている。なお、沖縄では人魚は津波を呼ぶものとされており、人魚を釣り上げてしまうと津波が来るとされていた。
また本作品は、観音様の霊験を書いた観音霊験記の一部である。画中の寺は観音正寺で、今から約1400年前、聖徳太子によって標高433メートルの繖山の山頂に開創された。 推古天皇の御代、近江国を遍歴していた聖徳太子は湖水から浮かび出てきた人魚と出会う。人魚は「私は前世漁師であり、殺生を業としていたため、このような姿になりました。繖山にお寺を建て、どうか私を成仏させてください」と懇願した。聖徳太子はその願いを聞き入れ、みずから千手観音の像を刻み、堂塔を建立したとされ、日本唯一の人魚伝説が残る寺院としてその歴史は脈々と受け継がれている。(榎並)参考文献
繖山 観音正寺『観音正寺の紹介』「人魚伝説の寺『観音正寺』」
乾克己 [ほか] 編『日本伝奇伝説大事典』、角川書店、1986年