-
-
作品名:「本朝武者鏡」「清姫」
出版:安政2年(1855)
絵師:歌川国芳
判型:大判錦絵
所蔵:MFA Boston(MFA-11.38116)伝承にまつわる妖怪の一人として、次は「清姫」を紹介する。清姫は、安珍清姫伝説に出てくる少女のことであり、その伝説は、能、歌舞伎、浄瑠璃などさまざまな題材にされてきた。本図で鐘に巻き付いている下半身が蛇になっている女が清姫である。この鐘は紀州随一の歴史を持つ道成寺の鐘で、鐘の中には安珍という修行僧がいる。本図は、物語のクライマックスのシーン「鐘巻」のシーンである。
道成寺の絵とき説法における安珍清姫伝説を紹介する。物語の内容は、奥州から熊野詣に来た安珍が清姫に一目惚れをされるところから始まる。熊野国を支配した真砂庄司の娘の清姫は、安珍に熱心に迫る。清姫の情熱を断り切れない安珍は、熊野からの帰り道に再び立ち寄ることを約束した。しかし、約束の日に安珍は来ない。清姫は旅人の目もかまわず、安珍を追い求める。やっと安珍に追いついたものの、人違いと言われて激怒する。安珍は祈りを唱えて、清姫から逃れる。安珍を見失った清姫は更に激怒し追いかける。日高川に至った安珍は船で渡るが、船頭は清姫を渡そうとはしない。清姫は、遂に一念の毒蛇となって川を渡る。(この場面から文楽の「日高川入相花王」が出来た。道成寺に逃げ込んだ安珍をかくまう僧、女難の珍客に同情しない僧もいた。鐘の中に隠れた安珍だったが、蛇となった清姫は鐘に巻き付いて竜頭に噛みつき、火を吐いた。安珍は焼死し、清姫は蛇の姿のまま入水自殺をする。住持は二人が蛇道に転生した夢を見る。法華経供養を営むと、成仏した二人が天人の姿で現れ、実はこの二人は熊野権現と観音菩薩の化身であったことを明かす。
安珍清姫伝説の内容は、おおよそこのようなものとなっているが、他の文献では相違点もある。『大日本国法華験記』、『今昔物語集』、では、少女ではなく若い寡婦であったり、安珍は一人ではなく老いた僧と一緒にいる、清姫の出生について詳しく記述されているものもある。(小山)
参考文献
天音山 道成寺『安珍と清姫の物語』「道成寺HP」
B3-3 清姫