A1-1-2 三国妖狐 竹沢藤次

作品名:「一流曲独楽 竹沢藤次」
絵師:歌川国芳
版型:大判錦絵
出版:弘化元年(1844)
所蔵:国立歴史民俗学博物館(H-22-1-7-26)

弘化元年3月より、江戸・両国広小路で行われた竹沢藤次の曲独楽興行を描いた作品。曲独楽で題材となっているのは、御伽草子、仮名草子、読本などの小説類や、能・歌舞伎などに取り入れられて普及していた「殺生石」伝説である。殺生石伝説とは、鳥羽天皇が寵愛した玉藻前(たまものまえ)の正体は、天竺や唐で悪行を尽くした妖狐の化身であり、その正体を見破られた後、下野国(現在の栃木県)那須野原で討伐され、人や動物の命を奪う殺生石という石に化したという話である。本図の右下には「殺生石」が描かれ、殺生石からたちのぼる黒雲には、黄金に輝く九本の尾を持った妖狐が描かれている。下部に描かれている僧は、殺生石を砕いて怪異を断ち、玉藻前を成仏させた玄翁和尚であろう。本図によれば、殺生石から妖狐が登場すると、藤次もともに黒雲に乗って独楽を操る演出だったらしく、曲独楽を演じるだけではなく、様々な要素を取り入れた演出を施し、見る人を魅了する構成だったと考えられる。本作品は、第一人者である藤次がそうした創意工夫によって曲独楽を華やかに仕立て上げていた様子が見て取れる。(甲斐)

参考文献
田川くに子『「絵本三国妖婦伝」「画本玉藻譚」(あの本・この本)』「日本文学21巻2号p.82-83」、日本文学協会、1972年
「殺生石」、コトバンク(参照2021-02-09)
国立民族学博物館『見世物大博覧会』、2016年

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