B1-3 狐【きつね】

作品名:「名所江戸百景」 「王子装束ゑの木大晦日の狐火」
出版:安政4年(1857)
絵師:歌川広重〈1〉
判型: 大判錦絵
所蔵:MET(MET-DP121555)

 鉄板妖怪の1人として、次は『狐』を紹介する。人智を越えた不思議な出来事の原因を動物に求めるさいに、それを狐の仕業と考えることがもっとも多く、狸と並び、化けて人を騙すものとして有名である。狸とは類似性が高いが、狸は入道に狐は女に化け、狸は絵を描き狐は書をたしなむ傾向が見られる。狐の話は、古くは9世紀頃からみられ、伝統的な妖怪である。
妖怪としての狐の位置づけがわかるのが、黄表紙『妖怪仕内評判記』である[参考画像あり、関連記事参照]。妖怪たちがそれぞれの化け姿によって番付されているのだが、先に紹介した妖怪たちの親分である見越し入道が(この黄表紙の中では隠居している設定のため、)「極(白抜き)上上吉」に対し、狐はその上をいく「極上上吉」と番付されるほど位が高く、代表的な妖怪といえるだろう。
 本作品は、そんな狐が何らかの方法で引き起こす怪火=狐火を描いた作品である。狐火の目撃談は多く、それによると複数の火が同時に目撃されたものが、提灯行列のように見なされ、人間の婚礼と似ているため、狐の嫁入りと呼ばれるようになった。(池田)

参考文献
小松和彦[ほか]編集委員『日本怪異妖怪大事典』、東京堂出版、2013年
アダム・カバット校注編『大江戸化物細見』、小学館、2000年
恋川春町作画『妖怪仕内評判記』

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