F5 夢の場.

作品名:「四ツ谷怪談」「民谷伊右衛門」「お岩霊」
上演:慶応2年(1866) 8月 大阪・筑後「近江源治先陣館」
絵師:一養亭芳滝
判型:中判錦絵 2枚続
所蔵:立命館ARC(arcUP0288-0289).

ドロドロになり、幕の前より銀紙細工にて「心」という字を上へ引いて取る。夢の場の始まりは決して悪いムードで進むものではない。むしろ七夕をイメージした舞台に蛍がちりばめられ、幻想的な雰囲気になる。ト書きによれば舞台には屋根から延びる唐茄子に萩の盛り、百姓の家があるそうだ。上演時に流れる独吟には糸車について語られている。図を見れば中村宗十郎演じる伊右衛門の背後には、その唐茄子が描かれている。対する実川延若演じるお岩の背景には民家と思われる建物が建っている。彼らの表情を見ると、伊右衛門はその場を愉しんでいる印象を受けるが、お岩は最大の復讐をしようと目論んでいるように思える。事実、お岩は霊として姿を現し、情景が大きく変わり、大どんでん返し。つかの間の幸福があることでお岩が作り出すおどろおどろしい空間を生み出しているのだ。

(澤野)