D4 紫の鉢巻.

作品名:「花川戸助六 河原崎三升」
上演:明治5年(1872)3月 東京・守田「助六所縁江戸桜」
絵師:豊原国周
判型:大判錦絵
所蔵:立命館ARC(arcUP5002).

助六の紫の鉢巻は基本的に結び目が額の右側にあるが、この作品には左側に描かれている。D3『助六の鉢巻』の記事で述べたように、江戸時代に描かれた型に忠実に、結び目は額の右側に描かれている。一方、明治時代に描かれたこの絵は、絵の構図を優先してか、結び目の位置を左側に変えても正面に見えるよう描いている。つまり、江戸時代から明治時代にかけて、浮世絵の描かれ方にも変化が生じたと考えられる。

確かに、助六の鉢巻の意味としての迫力を伝えるためには、鉢巻がよく見える正面側に描かく構図の方が適していると考えられる。しかしながら、鉢巻の結び目を額の左側に描くと病鉢巻の結び目になってしまう点において考慮する必要はなかったのだろうか。

どちらにしても明治期には、舞台上に見える役者の姿を忠実に描くのではなく、絵の構図や印象を重視する浮世絵が主流になったと考えられる。(山)