G0 弁天小僧(青砥稿花紅彩画)

 文久2年(1862)3月江戸・市村座初演。本名題「青砥稿花紅彩画」。作者は二世河竹新七、後の河竹黙阿弥である。黙阿弥の作中でも、最も上演頻度が高い人気作。ストーリーは信田家と小山家のお家騒動物として仕組まれ、白浪五人男と呼ばれる盗賊団の結成から捕縛までが描かれている。ただし、現行の上演では、「浜松屋」「稲瀬川」が中心で、舞台機構を駆使した「極楽寺山門」が付くこともある。
 「浜松屋」は、一味の一人である主人公の弁天小僧菊之助が同じく一味の南郷とともに浜松屋という呉服屋に武家娘に変装して訪れ、ゆすりをかけに行く場面。美しい武家娘と思っていた人物の正体がじつは弁天小僧菊之助であるとわかり、「知らざぁいって聞かせやしょう」と始まる弁天小僧の七五調のセリフはあまりにも有名であり、一番の聞かせどころである。また、後半の「稲瀬川」、日本駄右衛門率いる白浪五人男が勢揃いし、それぞれが名乗りを上げる場面も、桜並木の下で異なる鮮やかな衣装をまとった五人の勇ましさが感じられる名場面となっている。
 「浜松屋」では、本来は男(立役)である弁天小僧が、娘に扮し(女方)、それが見顕されると娘の扮装のまま、男に戻るという複雑なジェンダーの転換があることに眼目であるが、黙阿弥は、安政7年(1860)1月の「三人吉三廓初買」でも、お嬢吉三という女装の盗賊を描いている。しかし、女方が扮する女が実は男であるという趣向で、弁天小僧にはもう一つ捻った面白さがある。(住a.)

【参考作品】
作品名:「白波男五人競」「弁天小僧 尾上菊五郎」
出版:明治17年(1884)5月 東京・大西庄之助
絵師:豊原国周
判型:団扇絵錦絵
所蔵:立命館ARC(arcBK06-0004_061)