E3 対決の構図.

作品名:「判官義経 市川染五郎」「武蔵坊弁慶 市川團十郎」「富樫左衛門 市川八百蔵」
出版:明治31年(1898) 4月 福田熊次郎
絵師:豊原国周
判型:大判錦絵 3枚続
所蔵:立命館ARC(arcUP6160~6162).

武蔵坊弁慶、富樫左衛門、源義経の三人を描いた「勧進帳」は、弁慶・富樫の対立と義経のどちらとも異なる生き方が描かれている。弁慶は義経への忠義を貫くが故にあの手この手で難局を逃れようとし、義経だと気づかれて殺されないためならば義経を杖で打つという姿も描かれている。一人の人間への深い忠誠と、それに伴う「力」のある人物である。
一方で富樫は、組織に属する人物として上からの命令には逆らえず、どのような理不尽な命であっても従う。その命令を遂行しようとする冷酷さは、ただの山伏かもしれない弁慶達を殺そうとするところにも現れている。富樫はその冷酷さを見せつつも弁慶の忠誠心に心動かされる人間性も併せ持つ。そのため最後には義経一行と察しつつも彼らを通してやる。組織を裏切るのである。
個人、組織に忠誠する二人と異なるのが義経である。義経は組織から疎外された存在であり、また武芸や教養などを持ちながらも弁慶のように難局を逃れる「力」を持っている人物ではない。いうなれば、弁慶・富樫の対立の外側にいる人物が義経である。
この絵はその弁慶と富樫にある個人か組織かという対立、その外側に存在している義経を描いている。(堀池)