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01小姓吉三 八百やお七
絵師:三代目豊国
落款印章:好にまかせ 七十九歳豊国筆
判版:大判/錦絵
版元名:近江屋 久次郎
改印:子二改
配役:小姓吉三…十三代目市村羽左衛門 八百やお七…三代目沢村田之助
※本配役による上演は見つからない。
「其往昔恋江戸染」八百屋の場の一場面。
今まで母親に吉三とお七の仲を反対されてきたが、やっとお許しが出たので今から二人で杯をあげようとしていたところ、お七は吉三が明日出家すると言う事を吉三から言い渡され、びっくりして声を上げて泣いてしまう。そんなお七を気の毒に思った吉三は、出家は嘘だ、と宥めるために嘘をつき、「また明日来ます」と、伝えて立ち上がろうとするが、「出家するのが嘘ならば杯などをして、そしてあの床へ入って、どうぞあの」と、お七によって留められる。しかし吉三は「今日は帰らなければならない」と、言い帰ろうとするが、お七は吉三に抱きつき無理理やり夜着を着せる。
落款印章:好にまかせ 七十九歳豊国筆
判版:大判/錦絵
版元名:近江屋 久次郎
改印:子二改
配役:小姓吉三…十三代目市村羽左衛門 八百やお七…三代目沢村田之助
※本配役による上演は見つからない。
「其往昔恋江戸染」八百屋の場の一場面。
今まで母親に吉三とお七の仲を反対されてきたが、やっとお許しが出たので今から二人で杯をあげようとしていたところ、お七は吉三が明日出家すると言う事を吉三から言い渡され、びっくりして声を上げて泣いてしまう。そんなお七を気の毒に思った吉三は、出家は嘘だ、と宥めるために嘘をつき、「また明日来ます」と、伝えて立ち上がろうとするが、「出家するのが嘘ならば杯などをして、そしてあの床へ入って、どうぞあの」と、お七によって留められる。しかし吉三は「今日は帰らなければならない」と、言い帰ろうとするが、お七は吉三に抱きつき無理理やり夜着を着せる。
本図は、このお七が吉三を口説き、無理やり夜着を着せようとするその一瞬を捕えている。
この後、お七がこのまま濡れ場に持ち込むことは、六郎が吉三を連れ去ることによって阻止され、お七は吉三を追いかけるために処刑を覚悟で櫓の太鼓を打つ、という有名な場面となる。お七の物語から見ると、恋とは死をも厭わない麻薬的ものではないだろうか。
02梅川 忠兵へ
絵師:三代目豊国
落款印章:任好 七十九歳豊国筆
判型:大判錦絵
版元名:近江屋 九次郎
改印:子二改
出版年月日:元治1(1864)年
配役:梅川…二代目岩井紫若 忠兵へ…五代目坂東彦三郎
「恋飛脚大和往来」新口村の一場面。
遊女である梅川と飛脚問屋の養子である忠兵衛は、互いに恋仲です。忠兵衛が梅川の身請けのために公金に手をつけてしまい、責任を感じた梅川と二人で忠兵衛の実父のいる新口村へ逃亡します。
罪人となった二人は顔を隠す必要があり、忠兵衛は「頬被り」、梅川は「吹き流し」という、それぞれの役の性格を表すような被り方をし、男らしさや女の色気を表現しています。逃亡中の二人は、手拭いと合わせて、さらに正体がばれないように、隠蔽色である黒を身に纏っているのです。遊女といえばもっと華やかな身なりをご想像すると思いますが、もはや罪人と化した梅川は、髪飾りも少ない質素な身なりとなっています。黒が基調のこの絵は、遠くから見ても目を惹く特徴的な作品ではないでしょうか。
03足利頼兼 三浦高雄
絵師:三代目豊国
落款印章:好にまかせ 七十九歳豊国筆
判型:大判/錦絵
版元:近江屋久次郎
改印:子二改
配役:足利頼兼…二代目沢村訥升、三浦高尾…三代目沢村田之助
*この配役による上演は見つからない。
題材は「伊達競阿国戯場」で、奥州仙台の伊達家で実際に起こった伊達家のお家騒動が物語のモデルとされている。足利頼兼は仙台藩第三代藩主伊達綱宗がモデルの架空の人物であり、三浦高尾は伊達綱宗に身請けされ、その後隅田川の中洲の三叉で高尾丸と名付けられた船の上から吊るし斬りにされ参殺されたという伝説がある実在の遊女である。今回は高尾の吊るし斬りの舞台を含む台本を見つけることができなかったため、この絵のシーンについて深く調査することは出来なかった。しかし、絵本番付からは「伊達競阿国歌舞伎」の一番目浄瑠璃の「高尾丸千潮の三股」の一場面をみつけることができ、頼兼と高尾の位置関係や、立ち振る舞いに共通点が見られることから、「浮名のたまづさ」の絵も高尾丸という船の上のシーンであるのではないかと考えられる。また、国周の「見立三福対」では「浮名のたまづさ」と配役が同じことと、一緒に描かれている歌から、「浮名のたまづさ」が高尾丸での高尾の吊るし斬りの場面であることも考えられる。
04三浦屋揚巻 花川戸助六
絵師:三代目豊国
落款:任好七十九歳豊国筆
落款:任好七十九歳豊国筆
判型:大判錦絵 1枚
版元:近江屋久次郎
版元:近江屋久次郎
改印:子二改
出版年:文久4年(1864)2月
出版年:文久4年(1864)2月
配役:三浦屋揚巻<2>岩井紫若 花川戸助六<1>河原崎権十郎
助六、揚巻は歌舞伎十八番として有名な「助六所縁江戸桜」の主人公である。この絵では、助六の髷がばっさりと切り落とされている様から、「助六所縁江戸桜」のラストシーンを描いていると思われる。助六と、その恋人揚巻を狙う意久とが対決するシーンで髷を切られた助六は、そのあと廓内から逃げ出そうとするが見つかってしまう。そこで揚巻が自分の打掛の裾に助六を匿う、というのが描かれているシーンだ。歌舞伎の世界の中で「男伊達」といえば助六だろうと言われるほど、助六は弱きを助け強きをくじくという庶民の憧れの的であった。それを表すかのように、助六の絵は見得を切っているものが非常に多いが、助六と揚巻二人きりで描かれているものには見得を切っているものは少ない。物語の中で助六は、ピンチを幾度となく揚巻に救われており、そのような心を許した恋人にだけ見せる伊達男の「裏側」を表現することで、二人の仲の深さを表現しているのではないだろうか。本作のような助六と揚巻が二人で描かれている浮世絵というのは、「助六所縁江戸桜」の中でも二人の恋愛に重点を置いた希少なものだと考えられる。
05 あふぎや夕ぎり 藤屋伊左衛門
絵師:三代目豊国
判型:大判/錦絵
落款印章:好にまかせ七十九歳豊国筆
版元名:近江屋久次郎
改印:子二改
出版年月日:元治元年(1864)2月
配役:あふぎや夕ぎり(1)市川新車、藤屋伊左衛門 (5)坂東彦三郎
夕霧と伊左衛門は『廓文章』の主人公です。夕霧の紫色の病鉢巻、伊左衛門の紙子姿が特徴的な出で立ちとなっています。『廓文章』は、大坂新町の名妓夕霧太夫を追悼する目的で上演された『夕霧名残の正月』に端を発したものであり、『夕霧阿波鳴渡』吉田屋の段の改作となっています。この浮世絵に描かれている場面は、零落し、紙子姿に身を窶した伊左衛門が久しぶりに吉田屋に姿を現わし、そこで恋煩いに罹っている夕霧と再会を果たすという場面です。また、伊左衛門は夕霧が他の客と会っていることに腹を立て、不実を詰り、それを夕霧が説得する場面となっています。
ここで注目したいのが、この『廓文章』における愛と金との関連性です。夕霧には、200両(約1億8348強円)という破格の身請け金が設定されています。これは、他の遊女と比べても群を抜いている価格です。お金が無い為に一度離れた二人が偶然再会し、身請け金が届くことによって、一緒になれる。『廓文章』は、愛と金との関連を如実に語ったものではないでしょうか。
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