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ご挨拶
京都は、長い歴史の中で何度かの技術革新を体験しており、その中心地としての役割を果たしてきました。その一つに、「出版」があります。近世以降の出版においては、西洋のそれと違い「活字」を使わず、木版を使った「整版」技術が発達しました。この技術により商業出版活動が開化し、大がかりな情報革命が起きたのです。通常、活字印刷の方が進んだ技術に思えますが、挿絵や連綿体、和歌や漢文など、文字や絵画の割付けや位置そのものに重要な意味を持つ日本の書物にとっては、いわばアナログの感覚で版面を構成できる「整版」印刷の方が柔軟性があり、より多くの情報を伝える高度な手法だったのです。それゆえ、明治に入っても、整版本の出版は引続き活発に続けられていたのです。
今回その整版印刷と流通を支える根本の装置としての板木に注目したのは、版木研究を10 年来続けてこられた永井一彰氏から、奈良大学が所蔵する大量の版木の「デジタル・アーカイブ」をご提案いただいたのが切っ掛けです。これこそまさにデジタル・ヒューマニティーズならではの研究対象であると考え、二〇〇七年から共同研究を始めました。版木は、版本の背後にその存在することは誰もが意識していましたが、原物の扱いづらさから、十分に活用されてこなかった貴重な文化財です。版木の彫摺技術はすでに失われてしまったと言ってよく、工芸・美術品の域に達していると言っても過言ではありません。今回、私どもが実施したデジタル・アーカイブでは、原物を持出さなくても研究可能な高精度な画像と情報を蓄積し、取扱いの障害を取り除くことに成功しました。このデジタル・アーカイブを活用し、今後、失われた整版技術やノウハウを探っていくことは、私たちに課された重要な課題です。
こうした研究状況を公開することも目的ですが、本展覧会では、「版木」と何かを原物により紹介し、「版木」から何が分かるのか問うことをよい大きな目標としました。ここに出展した版木は自ずから京都の版木が中心となります。デジタル複製物では伝わらない、微妙な工芸技術や迫力を体感していただきたいと思います。またデジタル画像による版木閲覧システム、3D による形状分析結果や触覚提示システムを併置することにより、デジタルの位置はどこにあるのかを考える切っ掛けにしていただければ有難く存じます。
最後になりましたが、本展覧会を実施するにあたり、全面的なご協力をいただきました永井一彰氏、ならびに奈良大学、竹苞書楼、ほか関係諸機関に深甚の謝意を表します。
2009年2月16日
立命館大学グローバルCOE プログラム
「日本文化デジタル・ヒューマニティーズ拠点」
「版本と版画の美プロジェクト」一同