イントロダクション

アメリカの民俗楽器(1)

アメリカの民俗楽器(2)

アメリカの民族楽器(3)

アメリカの民俗楽器(3)

オートハープ autoharp

オートハープとは文字通り「自動ハープ」で、左手でボタン一つを押し、右手で弦をかき鳴らすだけで特定の和音が奏でられるという弦楽器だ(写真 オートハープいろいろ原典へのリンク)。この楽器は19世紀末に、ドイツの楽器製作者、ギュター(C. A. Gutter)によって発明された (フィラデルフィアのドイツ系移民、チャールズ・ティマーマン Charles Zimmerman が発明者だという説もあったが、ギュターが正しいようだ。これに関しては、The True Story of the Autoharp を参照)。素人にも簡単に演奏ができるので人気を呼び、1888年までにアメリカで5万個以上のオートハープが売れたという。学校教育にも取り入れられた。 カントリー音楽のパイオニア、カーター・ファミリーが歌の伴奏に用いたことから、カントリー音楽の楽器としても知られている。 オートハープは、歌の伴奏として使われることが多いが、ここではオートハープの音色が聞きやすいよう、器楽曲を紹介する(音楽: Loch Lomond Autoharp Concertoより。前半のメロディーはオートハープ、後半のメロディーフィドルが奏でている)。この曲からわかるように、オートハープは和音だけでなくメロディーを奏でることもできる。

ディドリボー diddley bow

これは、南部の黒人達の間で使われていた自家製楽器の一つで、一本の針金を家の壁や柱、または平べったくて細長い板などに張っただけの、シンプルな一弦楽器だ。 小さな空き缶や空瓶をブリッジとして弦の下にはさむ(写真 One String Sam原典へのリンク)。ガラス瓶の首やグラスなどを左手で弦に擦りつけながら右手でつま弾くので、ギターのボトルネック奏法と同じような「ウィ〜ン」というスライド音がでる。弦のどの部分を瓶あるいはグラスで押さえつけるかによって音の高さを変える(音楽:" I Need $100"by One String Sam, Motor City Bluesより)。貧しい黒人達は、手に入るありあわせの材料で様々な自家製楽器を作ったが、中でもディドリボーは、ブルースの伴奏楽器として多用された。南部出身の黒人ブルースマンには、ディドリボーがまず最初に手にした楽器だったというものも少なくない。
、ロックン・ロール歌手のボー・ディドリー(Bo Diddley 本名Elias McDaniel)は、ディドリボーをもじった芸名だ。

ジャグ jug

ジャグとは水差しのことだが、これも楽器の代用品として使われた(写真 ジャグ原典へのリンク)。 水差しの口の部分にむかって息を吹きかけて音を出す。水差しの容器の部分が共鳴体となる。息を吹きかける角度や口の形を変えることで音の高さを変えることができ、チューバのような低音の吹奏楽器の代用品となった。

ジャグ・バンド jug band

ジャグや、下記のウォッシュボードウォッシュタブ・ベースなど、家庭用品を利用した楽器に、バンジョー、フィドル、ギター、ハーモニカ、カズー(アフリカ系アメリカ人が考え出したおもちゃの笛)などを組み合わせたジャグ・バンドといわれるバンドが、20世紀初頭から南部の黒人達の間に現れ始め、それがやがて白人達の間にも広まった(写真1:Memphis Jug Band 中央がジャグ、右下がウォッシュボード; 写真2:Washboard Slim and the Blue Lights 左端がジャグ、真中がウォッシュボード 写真2原典へのリンク)。

ジャグ・バンドは、普通の西洋楽器を手に入れることのできなかった貧しい南部の黒人が、ありあわせのものを代用品としてつくりあげたのがそもそもの始まりだが、そのユニークな音と外観から、一つのバンドのスタイルとして確立された。1920年代から1930年代にかけては多くのジャグ・バンドが結成され、レコーディングも行なわれた。 以下の音楽例で、フィドルのメロディーに対してベースラインを奏でているのがジャグである(音楽1: Jug Band Special by Whistler’s Jug Band, Ruckus Juice Chittlins: The Great Jug Bands-Classic Recordings of the 1920's and 30's, Vol. 1 より;音楽2:Pig Meat Blues; by Whistler and His Jug Band, Violin, Sing The Blues For Me: African American Fiddlers 1926-1949 より;音楽3: Ruckus Juice and Chittlin'; by Memphis Jug Band, Ruckus Juice; Chittlins: The Great Jug Bands-Classic Recordings of the 1920's and 30's, Vol. 1 より)。

ジャグ・バンドは、黒人・白人両方の民俗音楽の中で使われてきたため、ただ一つの音楽ジャンルと結びつけることはできない。ディキシーランド・ジャズ(初期のジャズスタイル)、ブルース、ヒルビリー(初期のカントリー音楽)など、ジャグ・バンドの演奏する音楽は様々だ。
現在でも、少数ながらジャグ・バンドは存在している。現在ではむしろ、白人の民俗音楽の中でジャグは存続しているようだ。