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和漢百物語 仁木弾正直則



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【翻刻】

仁木弾正直則


仁木直則は足利頼兼の家臣にて悪逆無道の曲者なり 既に主家を倒んとはかり雨償々として窓をうがつの夜寝殿にしのび入て幼君を害し奉らんとなしけれども

天実をてらしたまひ 妖術くじけて忠心荒獅子男之助が鉄扇の下に伏したり

菊葉亭露光記



絵師:一魁斎芳年

大判錦絵


【題材】

この絵画の題材となっているのは、歌舞伎の『伊達競阿国戯場』(だてくらべおくにかぶき)であろう。そして、この歌舞伎の根本的な話しが、いわゆる『伊達騒動』(寛文事件)である。

この絵の場面はまさに床下にいた鼠を男之助が捕まえ、尻尾を踏みつけ眉間を割ったのちその鼠が実は仁木弾正の忍びの姿であるため、鼠から仁木弾正に変わるシーンである。


〈伊達騒動のあらすじ〉

万冶3年(1660)仙台藩六十二万石の藩主、伊達陸奥守綱宗(だてむつのかみつなむね)は、遊郭通いなどの不行跡を幕府に咎められて、隠居を命じられた。そのため、2歳になったばかりの亀千代(のちの綱基・綱村)が家督を相続し、綱宗の伯父にあたる伊達兵部少輔宗勝(だてひょうぶしょうゆうむねかつ)と綱宗の庶兄田村右京亮宗良(うきょうのすけむねよし)の二人が幕府より後見役を仰せつけられた。それを機会に伊達兵部は家老の原田甲斐宗輔と結託し、また当時の幕府の権力者である老中酒井雅楽頭忠清(うたのかみただきよ)の後ろ押しによって、もう一人の後見役田村右京亮を押し除け、仙台藩の政治をほしいままにした。これを憂えた伊達家一門の伊達安芸宗重は、たびたびその非を訴えたが受け入れられず、ついに幕府に訴状を提出した。

こうして、寛文11年(1671)3月27日そのころ大老になっていた酒井雅楽頭の上屋敷で、幕府の老中、大目付、それに仙台藩の関係者が一堂に会し、評定となった。その時兵部、甲斐らの一味の謀略が露顕し、甲斐は乱心して安芸を斬殺し、みずからも斬り殺された。 幕府は、この事件を伊達家の家臣団の不和とその怨恨による刃傷事件とする見解をとり、それが大老の上屋敷に行われたことの罪科として、主謀者の兵部は流罪、甲斐の一族はことごとく死罪となり、原田家は断絶した。4月6日、幕府の召喚により陸奥守綱基は登場し、

「領知召し上げになるところに許す、今後は後見なしで家中仕置に当たるべきこと」

が言いわたされた。こうして伊達六十二万石は、何の障害も受けず安㤗となることができたのである。

(『伊達騒動』(上)P10-11 引用)


【伊達競阿国戯場】

実際の外題は「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」というので演じられる。伽羅先代萩は6つの場面にわかれており、「花水橋の場」「竹の間の場」「御殿の場」「床下の場」「対決の場」「刃傷の場」となっている。今回の絵の場面は4つ目の「床下の場」の中のシーンである。

「伊達競阿国戯場」は、「伽羅先代萩」の各場に累系統の場面を加えた作品であり、元々は安永6年7月に中村座に初代桜田治助が「伊達競阿国戯場」という外題で書き下ろした脚本がきっかけとなり、安永8年には「伊達競阿国戯場」の浄瑠璃が上場されたことが有名である。 であるからして、今回の作品のシーンは加えられた場面であるから、元々は話の中になかった偽りの場面のシーンである。


【鼠の描かれ方】


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芳年画では、鼠が小さくそして、仁木弾正のすぐ傍に描かれている。一方で豊国画では、鼠ははっきり描かれておらず、背景に鼠を何匹もぼんやりと描かれている。国周画においては、芳年画とは異なり、大きく描かれており、仁木弾正が煙にまぎれている状態があらわされている。 まとめてみると

①鼠の大きさの違い。 ②鼠の強調性の違い。 ③巻物をくわえていない絵が多い。

といった点が違いとして表れている。



【その他伊達騒動を題材にした作品】


『けいせい睦玉川/明和5年』

『裏表先代萩/文政3年(1820年)』

などがある。


【まとめ】

芳年画において、豊国や国周とは違い、特に鼠の描かれ方が違うことがわかる。やはり、当時の江戸・明治において、鼠いう存在がどのような位置にいたのかが重要なポイントとなるのではないであろうか。今後の課題として、江戸・明治おける鼠の位置ずけと、この伊達騒動において、元々の話はどのようなものであったのだろうか。この二つが課題となってくる。




【参考文献】

『名作歌舞伎全集 第13巻』東京創元社 1969

『伊達騒動 上・下』 教育社 1982.4,20

『月岡芳年展』 京都新聞社 1977.9

『原色浮世絵大百科事典 第3・11巻』 大修館書店 1981.11

『歌舞伎登場人物事典』 白水社 2006.5

『歌舞伎オンステージ20』 白水社 1984.7.30

『昔話・伝説小事典』 みずうみ書房 1987.11

『歌舞伎定式舞台図集』 講談社 1980.8.20