E2-2 神になった菅原道真.

『絵本天神御一代記』

絵師:奥村政信 判型:半紙本
出版:宝永頃(1704~1711)
所蔵:立命館ARC  所蔵番号:arcBK02-0088.

【解説】
世に恨みを抱いて死んだ人は怨霊となる。怨霊は、祟りをなし世の中を混乱におとしいれる。疫病が流行る原因を、この怨霊の祟りのせいであるとする考え方が生じ、斉明天皇七年(661)には、蘇我蝦夷の怨霊のために多くの人が亡くなったとする(『扶桑略記』)。奈良時代の後期からは政治的敗者が怨霊とし記録されるようになり、平安時代に入るとこれを国家が「御霊」として祀ることで、混乱をおさめ秩序を維持するという政治手法をあみ出した。
 藤原時平との抗争に敗れ、太宰府に流された菅原道真の場合は、その死後、天神として北野の地に祀られることによって、むしろ朝廷の守護神として位置づけられることになった。道真の場合、神童として現れ、急激な昇進のあと、仲間の中傷や時平の政略により、一気に没落してしまう。それ故にその生涯は注目をあびたが、さらには没後に起きた時平一族や醍醐天皇の病死、清涼殿への落雷などという偶然によって、異界にある雷神から、こちら側の神になり得たのである。
 一方、平安時代の末期には、保元の乱以降、政争と戦乱が相次ぎ、多くの怨霊を生み出したが、中でも崇徳院は最も強力な怨霊として記憶に残った。しかし、天神との違いは、崇徳院が天狗と結託して魔道に手を染めたからで、平家物語では、すべて崇徳院への畏怖による鎮魂行事として描かれている。(大a)