C0 坂田金時 英雄の力.

 頼光四天王の一人であり、その中でも謎の力を持つ坂田公時。生没年をはじめとしてその生涯についても正確なところは不明であるが頼光の酒呑童子退治や土蜘蛛退治に沿って豪快な武勇伝を展開する。
 頼光一派によって討伐された酒呑童子は異常出生を遂げており(→A2-2)、かつ共に人ならざる力を持っていた。そんな人ならざる力を持つ存在を討伐するには同等以上の力が必要となる。その力を持っていたのが坂田公時なのである。彼の力は土蜘蛛や異常出生で誕生した酒呑童子など人ならざるものを倒すためには必要不可欠なものであった。坂田公時は山姥の子として異常出生し、体の色は朱のごとく赤く、熊や猪と相撲を取るほどの怪力を持っていた。この特徴から何を思うだろう。その人物とは「金太郎」である。実は坂田公時の幼名は「金太郎」で、金太郎豆であったり唱歌にもある有名な「金太郎」である。金太郎こと坂田公時は人ならざる力を生まれたときからすでに持っていたのである。
 坂田公時は源頼光の出会いをきっかけに「人」とみなされる立場を確立していった。その一方酒呑童子は山の中に住み、都の人にとっては異界のような地で生活する「鬼」として立場が確立されていった。坂田公時は「人ならざるもの」から「人」として変化していき、異界との境界に立ってずば抜けた力を持っていない人々を守る英雄的存在となったのである。
 坂田金時のほかにも異常出生を遂げて英雄となった存在がいる。金時の息子として創造された「金平」、五条大橋や仁王立ちで有名な「弁慶」、誰もが一度は読んだことのある昔話に登場する「桃太郎」。三人とも異常出生を遂げており、「金平」「弁慶」は幼少期は周囲からおそれられる存在であったが大人になるにつれて徐々に英雄化していった存在である。ここでは異常出生を遂げた者たちが境界を超えて英雄化していく姿を武者絵や古典籍の挿絵から読み解いていきたい。(宮).

【参考図】
「前太平記之内 坂田金時」(大英博物館 1915_0823_0935