A2-3酒呑童子の首.

『頼光大江山帰陣図』

絵師:歌川国芳 判型:大判錦絵
出版:嘉永5年(1852)
所蔵:立命館ARC 所蔵番号:arcUP4402~4404.

【解説】
 大江山で鬼退治を終えた頼光らが都で凱旋を行っている。手柄をおさめた頼光らを一目見ようと多くの見物人が集まっている。その頼光より前で人々に担がれているのは、討ち取られた酒呑童子の首である。
*「神田明神祭礼 大江山凱陣」(「江戸名所図会」)
 日本文化において、世界は内部と外部に分けられる。内部は人間界を指し、その中心には王権が存在する。一方外部には「珠」と呼ばれる不可視の霊的存在があり、この「珠」は鬼、龍、狐といったような人間を脅かすものとして形象化される。中世王権説話では、人間に危害を及ぼす外部からの侵略者を退治し、その象徴である「珠」を自らの支配下に置くことにより、王権は王権たる力を持つことができるのである。
 酒呑童子伝説における外部からの侵略者は酒呑童子を、また「珠」は酒呑童子の首を意味する。現存する最古の伝本『大江山絵詞』では、大江山で退治した鬼たちを火葬したとあるが、酒呑童子の首だけはそのまま都に持ち帰ったのである。このあと天皇上皇の叡覧ののち、首は宇治の宝蔵へ納められる。外部の敵の象徴である「珠」を内部の中でも重要とされる場所に保管していることから、酒呑童子伝説が中世王権説話の流れをくむ伝説であることが分かる。(小).