虎
とら
画題
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解説
画題辞典
風に嘨く勇猛なる姿態は雄壮なる我が人心に適ひ、武弁殺伐なる足利末期より雄心尚ほ消磨せざる桃山時代江戸時代の初期に於て、或は猛虎とし或は竹に虎とし、或に龍に配して龍虎として盛に画かる、龍虎に就いては其条を参照すべし、虎を画くには竹を配景とするを通常とす、其知られたるものを挙ぐれば、
牧渓筆虎(京都大徳寺所蔵)、
伝狩野元信筆群虎襖(相模早雲寺所蔵)、
狩野元信筆竹虎(京都西本願寺所蔵)、
雲村筆竹虎(東京美術学校所蔵)、
狩野探幽筆群虎竹(京都南禅寺所蔵)、
狩野探幽筆竹虎(秋元子爵旧蔵)、
円山応挙遊虎襖絵(讃岐金刀比羅神社所蔵)、
同筆猛虎図(南部伯爵所蔵)、
同(西村某氏所蔵)、
続いて長澤蘆雪、岸駒等最も好んで之を画き、作品甚だ多し、明治時代に入りては岸竹堂、大橋翠石等が筆世に知らる。
(『画題辞典』斎藤隆三)
東洋画題綜覧
虎は哺乳動物食肉類で、亜細亜洲の特産と称せられ、シベリヤから満洲、蒙古、朝鮮、支那本部、印度、安南、瓜哇方面にまで分布し、凡そ七種ほどになつてゐる朝鮮に棲息する種類は高麗虎、又は朝鮮虎といひ、大形のもので、今では慶尚北道から、咸鏡南北、江原道辺に多いが、中部には少くなつてしまつた、その形態等はよく知られてゐるが、多く南面した山峡の洞窟などに棲み、湿潤を嫌ふ、毛皮を大切する性あり、坦道を歩んで叢などを避けると称せられ、他獣を狙ふ時は猫の如く静かに対手を狙ひ猛然と飛びかゝつて前肢で倒し咽喉を啣へ頭の骨を外してしまう、活動は夜である、昔は虎は立秋に初めて嘯き仲冬始めて交尾すといはれ、三年に一回二頭から五頭位の仔を産む、妊孕期間は十四五週間である。
虎は古来、霊獣として芸術にも深い交渉を有し、竜虎として双幅に画かれ、或は竹林に配せられて『竹虎』となし、四神の一に選まれて白虎となり、豊干禅師、寒山拾得と共に睡つて『四睡』といはれ、月下に嘯く所を画いて『猛虎一声山月高』といふ。画かるゝ処極めて多い。
虎を画いた名作
牧谿筆 京都紫野大徳寺蔵
雪村筆 『風竹虎』 東京美術学校蔵 狩野元信筆 『竹虎』 京都西本願寺蔵
伝永徳筆 『虎』 京都禅林寺蔵
狩野探幽筆 『竹林飲虎』 京都南禅寺蔵
円山応挙筆 『虎襖絵』 讃岐金刀比羅神社蔵
橋本雅邦筆 『竜虎屏風』 岩崎男爵家蔵
(『東洋画題綜覧』金井紫雲)