反魂香

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総合

 中国の想像上の香の名で、焚くとその煙の中に亡き人の姿が現れるという香。返魂香、去死香ともいい、楓に似た花と葉をもち、芳香を百里先にも放つという霊木・反魂樹から製造されるとしている。

 反魂香に関する逸話はいくつかあるが、最も知られているのは漢の武帝の故事で、漢の武帝は寵愛していた后・李夫人の死を悲しみ、夫人に対する思いがやまないため、泰山の方術士・李少君に反魂香を焚かせたところ、その煙の中に亡き李夫人の姿が見えたというものである。この説話は『漢書』『後素集』『東坡詩集註』などに見える。武帝伝説は白居易の傾国の詩にとりあげられ、それが『源氏物語』や『太平記』に引かれるなどして、わが国にも反魂香の伝説 が定着していったようである。

 反魂香は元禄歌舞伎の典型的代表作『けいせい浅間嶽』(元禄十一年正月、京都布袋屋初演)の中で、形を変えて取り入れられたことにより、「浅間物」というジャンルを形成する。『けいせい浅間嶽』は諏訪家の御家騒動の狂言で、あらすじは、諏訪家の若殿小笹巴之丞が、家を追われ流浪の末、許婚音羽の前にめぐり合う。そこで愛人である傾城奥州との間で交わされた起請(愛の誓いの証文)を、今は無用になったと火鉢に投げいると、煙の中から奥州の姿が現れて、恨み言を言って消える。  この起請にこもる奥州の怨念の場面は特に人気が高く、以後この煙の中に思う人の姿が現れるという反魂香の趣向は、さまざまな形となって歌舞伎や浄瑠璃に取り入れられ、また浮世絵では見立絵となっている。

 しかし反魂香の故事そのものの絵画化や劇化は少なく、浮世絵などで浅間またはその見立絵が多いように、美術方面では故事よりも浅間物との関係の方が深い。



画題

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解説

(分類:物語)

画題辞典

支那仙逸の故事にして最も知らるゝ所なり、李少君字は雲翼、泰山に住す、「漢武市の時宮中に抵り、反魂香を焚き、薫煙の裡に皇后李夫人の姿を顕して帝に見せしめたりといふ、図せらるゝ所多し。

(『画題辞典』斎藤隆三)

東洋画題綜覧

想像の香の名で、これを炷くと煙直上してその中に死者の姿を現はすといふ、漢武帝と李夫人との故事に名高い。

李少君、字は雲翼、泰山に居す、漢武帝の時、反魂香をたき、煙の中に皇后李夫人の姿をあらはして武帝に見せしむ。  (後素集)

李夫人死、漢武帝念之不已、乃令方士作反魂香焼之、夫人乃降。  (東坡詩集註)

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)