C1-0 阿野廉子...

 『太平記』は南北朝の動乱を描いた軍記物語である。そこには数々の武士たちが活躍する一方で登場する女性は少ない。その中でも一際特徴のある女性として阿野廉子は描かれている。阿野廉子は『太平記』では三位の局とも呼ばれる。廉子は巻第一「立后事付三位殿御局事」の中で、後醍醐天皇の寵愛を受けたとても美しい女性として紹介されている。また機知に富み、話し上手であったとされ、常に天皇の側にいて世話をする女房であった。そして後醍醐天皇も廉子を皇后と同じように扱っている。廉子と後醍醐天皇の絆は強く、後醍醐天皇の隠岐配流の際にも同行するなど、中宮である藤原禧子よりも気に入られていた。その艶やかな美貌と要領の良さから才色兼備な寵妃として描かれる一方で、建武新政が始まり廉子の地位や影響力が絶大なものとなると、権勢を振るい新政権を混乱させる存在となる。さらに廉子の口添えにより建武の論功行賞が乱れたり、我が子を皇位につけるために大塔宮を失脚させるなど政治に深く関与した。これにより傾国の美女や悪女として評されており、中国の故事や説話を用いて諷刺されている。しかし、同時代の不運な女性達と比べると強い女性としての個性が際立っており、そこに阿野廉子の魅力が詰まっていると言える。
 このコーナーでは浄瑠璃や小説などの作品を通じて、時代を追うごとに阿野廉子がどのような人物として描かれてきたかについて解説する。(簗.)
【参考出品】
埼玉県立博物館編『図録 絵本太平記』(1997年 埼玉新聞社)