C0 太平記の女たち...

 本コーナーでは太平記に登場した女たちについて取り上げる。『太平記』が描かれた南北朝期には楠木正成や足利尊氏などの著名な武将達が活躍するが、それは、まさに戦いと政治の "男たちの時代" である。『太平記』自体登場人物が多く、敵味方の区別も複雑であり、文学性よりも歴史記述が先行しているため、『平家物語』などで描かれる源平合戦よりも注目度は低くみられるようである。
 明治以降、天皇が再び政治の中心となり、帝への忠誠が重んじられるようになる。またいくつかの戦争に直面すると楠正成や新田義貞が注目されるようになる。しかし、そこに登場する女性の活躍に目を向けられることは少なかった。それでも、側で支える女性の存在なくしては男性の活躍はなかったのであり、そうした女性に、後醍醐帝からの寵愛を一身に受けていた妃阿野廉子、絶世の美女であり夫からの寵愛を受けた新田義貞の妻勾当内侍、夫を立て息子を立派に育て上げた良妻賢母楠木正成の妻久子、そして高師直に横恋慕されるも夫に一途であった塩冶高貞の妻顔世御前らがいる。近代以降は、吉川英治の『私本太平記』など、そうした女性達にも光を当てた作品も生まれている。ここでは、南北朝の時代の歴史の影に隠れた女性たちの生き様について解説していく。(簗.)