B2-1 悲劇の母

「常盤御前雪行」
絵師:月岡雪鼎 判型:紙本肉筆
出版:天明頃
所蔵:立命館ARC 作品番号:arcHS02-0007.

【解説】
平治の乱の後、清盛の義朝遺児探索を逃れるため常盤御前は三子を連れ都を落ちのびる。時期は酷寒の冬、雪の降り積もる中のことである。この場面は「伏見常盤」と呼ばれ、幸若や歌舞伎などさまざまな芸能に取り上げられているが、本作で描かれている常盤の姿は『平治物語』の常盤像に近いと見ることができる。『平治物語』における「伏見常盤」の場面では、誰のことも頼ることができずに幼い子供を連れ雪中を進む常盤御前の孤独で心細い心情が痛切に表され、ここでの常盤は悲劇的な運命に翻弄されながらも懸命に我が子の命を守ろうとするかよわい母として描かれている。
作者の月岡雪鼎は気品ある艶麗な美人画を得意とし、多くの実力ある絵師を輩出する月岡派を形成した。(村)