【7日目】10月19日

担当:小林圭子

最終日は立命館大学アートリサーチセンターで総括が行われた。初めに赤間先生とトラヴィスさんから立命館大学のデジタルアーカイブや、大正から昭和期の京都の新版画運動に関するレクチャーがあった。その後、佐藤木版画工房の摺り師・中山さんと平井さんを交えて立命館大学が所蔵する大正時代の版木や版画を観たり、高知、美濃、越前での摺り実験の結果を検討したりした。

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和書をスキャンする装置の紹介するトラヴィス先生

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浮世絵の摺りの検討(左から、松葉先生、中山さん、平井さん)

立命館大学アートリサーチセンターでは、「日本文化デジタル・ヒューマニティーズ拠点」プロジェクトで浮世絵からゲームまで幅広い日本文化に関わる絵画や書籍をデジタル化している。和書をスキャンするときに傷めないようにするため、特別な装置も開発した。浮世絵のデータベースには18,000枚が収蔵され、日本のコレクションでは3本の指に入っている。

 私も後日データベースで検索してみたところ、葛飾北斎、恋川春町などの作者名をキーワードにすると多くの件数がヒットした。和綴じ本も見開きを精度の高い画像で閲覧することができる。検索方法をマスターして、今後活用していきたいと思う。

 今回のレクチャーで、大正・昭和期の京都の新版画運動の中心に佐藤章太郎商店があったということを知った。東の渡辺庄三郎、西の佐藤章太郎と言われていたそうだ。佐藤章太郎は、吉川観方、三木翠山、野村芳光らの版画集を版行した。関東大震災で職人が京都に疎開したことも京都での錦絵の技術の発展に関係している。多くの版を摺り重ねることで肉筆画のように見える摺り技法は京都が発祥で、日本画の版画化につながったそうだ。

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柿渋紙が取り付けてある版木(左)中山さんが摺った役者絵(右)

 続いて、立命館大学が所蔵する吉川観方の役者絵と舞子、三木翠山の金閣寺の版木と版画を鑑賞した。役者絵の版木には様々な工夫が見られて興味深かった。髪の生え際にぼかしを入れるため、頭部の濃い墨が付かないよう生え際だけを隠す柿渋紙が取り付けられていた。また、顔面は色を載せずに紙の色を生かしているのに版木ではきちんと顔の輪郭通り彫り残されているのは、彫り跡がエンボスしないようにするためだ。版木が反らないように短辺側に添え木が取り付けられていたが、このようなやり方は珍しいそうだ。今回これらの版木から摺りを行った佐藤木版画工房の中山さんによると、当時の摺りを忠実に再現するのはなかなか難しいとのことだった。

 最後に、今回のワークショップで訪れた高知、美濃、越前で行った摺り実験の結果を検討した。伝統木版の摺り師さんたちと湯浅さんは、全部の紙に対して同じ1セットの版木を用いて同じ絵具や道具で摺り、摺り具合や仕上がりを比較した。ケイトさんはゴマ摺りの効果がうまく出る紙を探し、版木や摺り道具を変えながら実験した。

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越前和紙に摺った浮世絵。(左上:卯立・楮紙、左下:平三郎・雲肌麻紙、右上:市兵衛・楮、右下:山田・麻とパルプ)

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裏面の様子(右下の摺りで裏に絵具が抜けている)

 伝統木版の摺りでは、高知と美濃の紙も問題なく摺れるが、普段から越前奉書を使用しているため、やはり越前の紙が摺りやすかったという評価だった。高知の鹿敷製紙の紙は機械漉きで、手漉きに比べて安定して摺りやすかったそうだ。機械漉きと手漉きの違いについてのコメントは、今後の紙選びで参考になると思った。清水木版画工房の平井さんからは、越前の和紙は細かい線やマットな色が出やすく伝統木版に向くが、他の紙も創作版画には適しているというコメントがあった。 

 美濃の紙は那須楮を原料とし、白皮の部分だけを使い、繊維が短く緻密なため、とてもきれいな紙になる。摺り師さんと湯浅さんから、薄いのでドーサなしで湿すとしなって持ちにくかったり、繊維が版面に残ったりするという問題が指摘された。裏に絵具が抜けやすいのは、繊維が短いためだそうだ。美濃和紙は紙そのものが本当に美しいので、扱いにくいかもしれないが、私もいつか素材を生かして使えるデザインを考えたてみたい。

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湯浅さんの作品を様々な和紙に摺った結果                  ドーサの有無の差が分かりやすい例(美濃和紙、鈴木、左がドーサ有)

 ドーサに関しては、滲み止めと、繊維が版面に残るのを防ぐといった効果だけでなく、発色を良くする効果もあることが指摘された。湯浅さんの実験の結果にその違いが顕著に出ていた。ただ、摺り上がりの鮮やさが必ずしも求められるわけではないので、何をよしとするかは作家が何を求めるかによるだろう。

 ゴマ摺りの実験をしたケイトさんは、高知の田村さんの楮紙にドーサを引いたもの、越前の山田さんの麻の半草、越前の卯立の工芸館の楮紙で気に入った効果が得られたと発表した。他の人が挙げないものが入っているのが面白いと思った。実験の変数の幅が広く、何を求めるかによって評価が変わってくるのだろう。

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ケイトさんの様々なゴマ摺りの実験(紙以外に版木、絵具の濃さ、摺り道具を変えている)

 これら実験の結果から、美濃竹紙工房の鈴木さんが強調されていた「悪い紙というものはなくて、何に使うかによる」ということがよくわかったと思う。私も何を表現したいかによって紙を選べるよう、これからいろいろな産地の和紙を購入して試してみるつもりだ。

 

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