【6日目】10月18日

担当:明才

  ワークショップ6日目となるこの日は、越前市を訪れ、「卯立の里」「岩野市兵衛工房」「岡太神社・大瀧神社」の3ヶ所を見学しました。
越前の和紙生産の歴史と文化、現状を学ぶ、貴重な一日となりました。特に、後継者の育成と販路の確保の重要性を感じることができました。

  最初に、博物館や体験施設など、越前和紙に関する建物が集まったエリアである「越前和紙の里」を訪れました。そして、その施設の一つである卯立の工芸館を見学しました。
卯立の工芸館は江戸時代の紙漉き家屋を移築して作られていて、土間や囲炉裏を切った板の間があり、建物自体もとても魅力的なものでした。そういった場所で昔ながらの手作業で紙を漉いている様子を見ると、「江戸時代の作業風景もこのようなものだったのかな」と想像が膨らみます。

 ここでは、紙漉き作業の工程を初めから終わりまで一通り説明していただきました。説明してくださったのは若い女性の紙漉き職人でした。簀桁をゆする姿がしっかりしていて、地域の中で若い職人さんが育っている様子を目の当たりにすることができました。

 工房に祀られていた御神像について質問したところ、「これは川上御前という紙の神様です」と教えてくれました。「5月にお祭りがあってお神輿が出る」ということを嬉しそうに話してくださる様子から、和紙生産の文化の中で神様が慕われていることが感じられました。

 工芸館の二階では、越前和紙を使った美術作品として、国内外の作家が制作したコラージュ作品や染色作品が展示されていました。和紙の魅力を味わえる場をつくり、和紙を使う作家と生産地とをつなげて、和紙の需要を広げていることに感銘を受けました。

  次の見学場所に向かう道中にも、工房や製紙所の看板、越前和紙と書かれたトラックなどをいくつも見かけ、ここが紙漉きの里であるという実感が沸いてきます。道の傍には水の流れる堀がどこまでも続いていて、この水が紙漉きを支えているのかもしれないと、考えを巡らせました。

 20分ほど歩いて、岩野市兵衛さんの工房を訪ねました。敷地内には、山を背にして四、五棟の建物が建っています。それぞれが工房で、紙を漉くところ、ちりを取るところ、紙を干すところ、と仕事別に分けてありました。樋からは絶えず水が流れており、その水は山から引いているようでした。

 岩野市兵衛は越前和紙職人の名跡で、現在の市兵衛さんは九代目。先代の八代目市兵衛さんに続き、国指定重要無形文化財に認定された方で、御年92歳とのことでした。現在、紙漉き作業のほとんどは息子である順市さんが担っていますが、それでも、ちり取りなどの一部の作業をするために市兵衛さんも毎日工房に立つそうです。

 岩野市兵衛工房では、350年間、大錦版だけを漉いてきたと伺いました。大錦版とは、浮世絵に使う紙を二枚とれる大きさの紙のことです。博物館や古道具屋で目にする江戸時代の浮世絵も、現在摺られている浮世絵も、同じくここから生まれた紙を使っているのです。また現在は浮世絵に限らず、絵画や木版画の美術作品にも使われているそうです。長きに渡って作家たちの需要に応えてきた紙なのだと思いました。

 市兵衛さんのお話の中で、「紙漉きに必要なのはやる気だけだ。好きでやるのではない、絶対にやるんだ、というやる気だ」という言葉が印象に残りました。人間国宝にまでなった市兵衛さんは、技術も努力も苦労もあって、成果も出して、他者から見れば途轍もない人物ですが、それを可能にしたのは意志、やる気だけだと語っていたのは興味深いことでした。

  岩野市兵衛工房を辞して、岡太神社・大瀧神社へ向かいます。10分ほど歩くと、二本の大きなイチョウの木に挟まれた赤い鳥居が見えました。岡太神社は、紙祖の神として川上御前を祀っていて、1500年前に作られたと伝えられています。その100年ほど後に大瀧神社ができたそうです。

 伝説には、「岡太川の上流に女性が現れ、谷あいで田畑の少ない村里に紙漉きを教えてくれた」「里人たちはこの女性を川上御前と呼んで崇め、紙の神様として岡太神社に祀った」とあります。

 この神社は拝殿と本殿の屋根がつながっていて、山の峰が連なっているような、波が打ち寄せるような印象を受けました。屋根は茅葺きで、とても見応えのある造りでした。越前の人たちの神社に対する尊崇と、歴史ある紙の里であることの自負がうかがえました。また、境内に立つ石灯籠には和紙が貼られており、これも紙の里ならではのことだと感じました。火を透かした和紙はきっと美しいだろうと思います。

  神社を離れ、帰路を歩きながら見渡すと、町の周りはぐるりと山に囲まれていて、盆地であることがよくわかりました。この山々から湧き出る水が、堀を流れ、紙漉きに使われているだろうな、と想いを馳せながら駅へ向かいました。よく晴れ、よく歩いた一日でした。

  この日、3ヶ所を訪れて特に強く感じたのは、後継者の育成と販路確保の重要性です。越前では次世代の職人が育っている様子が見られましたが、理由の一つには販路があるからだと思います。美術作品の展示も、販路確保の役割を担っていると考えられます。

 私の活動拠点である東北地方には柳生、川崎という産地がありますが、販売店舗などは無く、広く知ってもらう機会がなかなかありません。そういった点で、産地としての違いが感じられました。

 木版画家としての視点からは、紙の硬さが特に印象に残りました。私がいつも使っている紙は、越前で見せていただいたものよりも薄いものです。硬さの違いは紙の厚さ、あるいは、ドーサ引きの具合によるものだと考えられます。今後は厚みのある紙でも試作を行い、これからの制作に活かして行きたいと思います。

arrow_upward