ライデン民族学博物館の相撲絵コレクション

ライデン民族学博物館とARCのコラボレーション

 2021年3月、ARCの海外美術品デジタルアーカイブプロジェクトが進めてきたオランダ・ライデン国立民族学博物館の日本文化資料の内、浮世絵・銅版画・古典籍などのデジタル化資料が、民族学博物館の許可を得て全作品一般公開することになりました。ライデン国立民族学博物館は、シーボルト(Philipp Franz Balthasar von Siebold)や出島の商館長であったブロンホフ(Jan Cock Blomhoff)らのコレクションを中心に、江戸時代の紙ものがコレクションされており、日本文化研究者が数多く訪問して収蔵品の研究を行ってきました。相撲デジタル研究所はこの機会を得て、海を渡った相撲絵を広く紹介したいと考え、コレクションの内、相撲絵にリンクを貼ることにいたしました。出版されたほぼ同時期に日本を離れて遠くオランダに旅立っていった相撲絵の数々をご鑑賞ください。

ライデン民族学博物館「相撲絵コレクション」瞥見(簡単な解説)

 このコレクションには111枚の相撲絵が入っています。全体を瞥見して感じた最大の特徴は、ARCとのインタビュー記事で同館東アジアコレクション学芸員であるDaan Kok氏が述べているように、色が大変きれいに残っていることです。市場に出回っている浮世絵は多くの人の手を経ているために色が薄くなり紙も傷んでしまうものですが、このコレクションは販売された同時期に購入され、そのまま丁寧に包装されてオランダに渡ったものと思われます。この美しさは貴重なものと言えるでしょう。
 時代的に言えば、勝川春章の「谷風と宮城野」(RV-1327-151)が最も古いものになります。春好・春英の谷風、小野川の絵もあります。これらは当時でも人気で入手が難しかったのではないかと思いますが、蒐集を依頼された日本人が苦労して集めたものでしょう。また勝川派では春童、春陽といったほぼ無名に近い人の相撲絵が見られます。また似顔絵の名手であった春亭の絵もあります。谷風と小野川が対峙した寛政の黄金時代と言われた時期から少し後、雷電の一人天下から柏戸・玉垣の時代(享和から文化頃1801~1817)の絵が多いです。横綱が不在で相撲人気が今一つ盛り上がらなかった時期で、却って稀少価値があるかもしれません。後に横綱となる阿武松緑之助が小柳長吉と名乗っていた新入幕時代の取組絵(RV-360-1942b)などは非常に珍しいものだと思います。
 現在人気のある国芳は相撲絵をあまり描きませんでしたが、3枚組の土俵入りの図(RV-1353-1052ab)があります。また風景画である浮絵で有名な国虎の一人立ちの肖像画も珍しいものでしょう。変わったものでは子供向けのおもちゃ絵(右図)が複数枚含まれていることです。どのように使われたかはわかりませんが一人ずつ切り抜いてメンコや絵合わせのようにして遊んだものと思います。国郷、信輝といった絵師の名前が見えます。また厳密には相撲絵とは言えませんが安政の大地震(1855年)の時に出された「両四時角力取組」は要石が大鯰を投げ飛ばしている図です。上方に見える取組表もどきに「吉原 死人山」「壁土 即死山」などと見え、その惨状がしのばれます。
 デッサンに近い肉筆画が何点かあるのは当に珍品と言ってよいと思います。どのような経緯で入手したのかは不明ですが、絵師に近い筋から特別に入手したのでしょう。コレクションについての想像は膨らみます。相撲の何たるかも知らないオランダ人がとにかく珍しいものをと一山いくらで買ったものの中にたまたま面白いものが入っていた、と考えることもできます。或いは金だけ渡されて買ってきてくれと頼まれた日本人が色々考えて思いを込めて集めたもの、と考えることもできるでしょう。その日本人がこのラインナップにどのような意図を込めたか探ってみるのも楽しいでしょう。いずれにしても保存の良さ(色の良さ)と珍しい絵師が入っていることで、ひときわユニークなコレクションであることは間違いありません。小見出しのライデン民族学博物館「相撲絵コレクション」をクリックしてください。