A02最初の役者評判記
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『四条河原 野郎虫』下
作者:未詳 版型:中本1冊
出版:万治3年(1660)4月京都
資料番号:arcBK03-0077 所蔵:立命館ARC.【解説】
評判記のうち、早い時期のものは、狭義の役者評判記と区別して「野郎評判記」と呼ばれる。現存最古のものとしては万治三年『野郎虫』があげられる。評するところは主としてその容色、性格、歌舞の巧拙、声のよしあし、酒宴の座などでの座持ち、色を売る若衆としての客に接する態度から閨中の味わいに及び、詩歌や肖像画を添えることが多い。『野郎虫』は、京都四条河原(村山座・夷屋吉郎兵衛座・中村勘五郎座)の歌舞伎役者の評判を収録。
序文には、〈かぶき子〉といわれた当時の歌舞伎役者の生態や観客の様子、男色の歴史を興味本位に述べ、本文では、個々の役者の紋と好色的な評判に、狂詩・狂歌を付けてある。(塩)〈原文〉
ゑびすや 吉郎兵衛座
茂左衛門 花井浅之丞まひよし、面体よし、かんばんのかしら座を、めさるる人には。
おしからぬ人なり。され共。ふくれすぎて。帝江といふけだ物に似たり、取なりわろし。
このごろは吉郎兵衛座、すでにつぶれなんとしけるに、たれやらん此君に、
めをかけらるる人ありて、あまた金銀を出して、座をすくはれたるといへば、
とかく此人は吉郎兵衛ためには、白ねずみ。
大こく殿とや申さん。
黒米飯のお佛性、油断なくすへらるへし花鳥争妍裏 井蛙獨少天
浅知無可云 蒸目不堪眩山なしをまがふはさくらあさのぜう
をふ子たつ子もたちかへり見る〈意訳〉
ゑびすや 吉郎兵衛座
茂左衛門 花井浅之丞踊りがうまく、容姿もよく、自分の所属している座を治める人である。
座を引っ張っていく人である。しかし、太りすぎていて、帝江というけだものに似ていて、動作がよくない。
最近では吉兵衛座が、もはやつぶれようとしていて、誰だろうかこの人に、
目をかけている人がいて、たくさん金銀を出して、座をすくいましょうと言えば、
なんやかんやこの人は吉郎兵衛のためには白ねずみである。
大こく殿とかおっしゃる。
黒米飯のお供え物は、油断しないようにする。花鳥争妍裏 井蛙獨少天
浅知無可云 蒸目不堪眩山なしをまがふはさくらあさのぜう
をふ子たつ子もたちかへり見る野郎歌舞伎は、美少年の役者をスターとして、その美しい容姿を売り物としていた。だから、遊女評判記を模した役者評判記(野郎評判記)の需要があったことが推測される。役者の踊りや容姿に注目して書かれていることがわかる。詩歌や肖像画が添えられることで、評判記に華を添えると考えられる。(塩)
【参考文献】
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『岩波講座歌舞伎・文楽 第四巻 歌舞伎文化の諸相』(岩波書店)
『歌舞伎評判記集成 第一巻』(岩波書店) -
- 投稿日:
- by 8P
- カテゴリ: A ARC所蔵の貴重な歌舞伎資料
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