H01独特な表現と演技

『御狂言楽屋本説』初編
English Commentary
作者:三亭春馬 絵師:国貞〈2〉 版型:中本2巻2冊
出版:安政6年(1859)江戸
資料番号:hayBK03-0808 所蔵:立命館ARC.

【解説】
 歌舞伎は様式的な演劇であると言われている。しかし、実際には、実に種々多様な仕方で演じられてきた。その多様さは、時に衣裳や化粧に顕れたり、音や光の表現に顕れたりもする。舞台装置や大道具を使う場合もあれば、役者の肉体を使った表現もある。そうした中で、歌舞伎には、他の演劇ジャンルとは、異なる表現手法を獲得してきた。
 たとえば、舞台。歌舞伎の舞台は、能舞台から発展したものであるが、発展過程の中で、「花道」や「せり上げ」、「廻り舞台」などが付け加わり、それを使うことで、時間や空間を操る新しい出を可能とした。また、舞台の奥行を見せるための「遠見」工夫や、場面の切換えを素早く行うために大道具自体に工夫を加えた「屋体崩し」なども、それ自体をアピールポイントとすることもある。
 舞台装置だけでなく、一人の役者が素早く他の役に変わったり、人物の性質自体を舞台上で見ている間に変化させる「早変り」や、超人的な能力を持って空中を飛ぶ様子を実際に身体を空中に釣りあげることで表現する「宙乗り」など方法も早くから開発してきた。役者の演技でも、独特の化粧である「隈取」、台詞術の一つ「つらね」、独特の身振である「見得」などなど、枚挙に暇がない。
 このコーナーでは、とくに道具や仕掛けを使って、時間や空間を大胆に演出する方法のいくつかを取上げる。
 本図は、「せり上げ」を描いた図である。舞台下の様子を、観客席の取り払って描いているが、せり上げる動力は、人力である。舞台下は、奈落と呼ばれるが、照明は蝋燭の明かりのみで薄暗い。面白いのは、舞台の床板が「せり」の床面とは別にあることで、風呂の蓋のようにせり穴の脇に積み上げられていることである。
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 また、左に掲出する、もう一図は、「屋体崩し」の図で、この仕掛けにより、あっという間に舞台上の道具を変えることができた。(a.)

【用語解説】
 花道廻り舞台