F01歌舞伎音楽

「浄瑠璃 宝船枕艪拍 第一はん目五立目ニ相勤申候」
English Commentary
絵師: 国安 判型: 大判/錦絵
上演:文政11年 (1828)1月22日 江戸・市村座
興行名:二葉春花麗曽我 所作題:宝船枕艪拍
資料番号:arcUP4188,4189 所蔵:立命館ARC.

【解説】
 歌舞伎音楽は、舞台進行まで掌る義太夫節は別格として、舞踊の伴奏である所作事とBGMや効果音を担当する下座音楽に大別される。所作事には必ず三味線が使われ、歌詞も入っているのに対し、下座音楽は必ずしもそうでないことに違いがある。義太夫節は、主に人形浄瑠璃の作品を歌舞伎化した義太夫狂言を上演する時に、台詞は役者にまかせ、地を語って進行する大切な役割で、時に所作事の道行部分を担当することもある。
 所作事のための音楽としては、やはり浄瑠璃が使われ、代表的なものに現在もその主流である常磐津、清元、江戸中期に盛んであった富本の豊後節三派があるが、外にも豊後節以前の古曲としてまとめられる河東節、一中節などが現存する。時々、新内節などの新しい流派が舞台に上がったこともあった。また、長唄は、下座音楽に含まれるが、「出囃子」で所作事の演奏を担当することもある。
 所作事では、この作品で描かれるように舞台上で演奏される(「出語り」という)のに対し、下座音楽は「下座」と呼ばれる舞台の下手にある黒御簾と呼ばれる場所で演奏され、黒御簾音楽とも呼ばれる。

 本図は、常磐津節による「宝船枕櫓拍」の一場面を描いた出語り図である。太夫・三味線ともに裃姿で、山台にならび、観客に見える形で演奏する。出語りの様子を描かずに、役者と背景だけを描くのが役者絵の基本であるが、時として演奏している浄瑠璃をも含めた舞台模様を描いた。それだけ、演奏者達の人気があったという証拠となる。
 「二葉春花麗曽我」という初春の曽我狂言の一場面で、ここに描かれた小林朝比奈〈2〉坂東箕助、伝三〈7〉市川団十郎、朝平〈3〉坂東三八の三人の外、祐経〈3〉坂東三津五郎、虎〈2〉岩井粂三郎らが出演していた。背景には、常磐津小文字太夫らが、常磐津節特有の朱塗蛸足型の見台を前にして演奏している様子が描かれている。(a.)
【用語解説】
 義太夫節、豊後節、常磐津節、富本節、清元節、河東節、一中節、新内節、長唄、出語り、山台、見台