G01歌舞伎文化を楽しむ

『声色早合点』初編
 English Commentary
絵師:国貞〈1〉作者:五柳亭徳升 版型:中本1冊
出版:天保2年(1831)江戸
資料番号:shiBK03-0148 所蔵:白樺文庫.

【解説】
 歌舞伎は、江戸・明治期までは、人間が演じる<現代劇>であり、テレビやインターネットで現代人が情報を得たり楽しんでいるのと同様に、庶民の最大の娯楽として楽しまれていた。そのため、観劇の時間だけに歌舞伎との接点があるのではなく、生活の中の隅々にまで、その影響が様々な形で入り込んでおり、いわば生活文化の一部として存在していた。
 歌舞伎役者や上演中の演目は、つねに庶民の興味の的だった。上演の度に、ブロマイドにあたる「役者絵」が数多く売り出され、庶民はこぞってこれを買った。上演の後には、劇評にあたる「役者評判記」が毎年出版され、その芝居を見た人も見損なった人も、自分の評価と比較しながら興味を持って読んだ。役者は、現在のテレビや映画俳優よりももっと注目の的だったのである。現代でも物真似芸人たちが俳優や歌手の物まねをして喝采を浴びているが、すでに江戸時代にも存在していた。本図は、声色のトレーニング本であるが、ここに物真似芸人たちが描かれている。
 歌舞伎は大人だけの楽しみとしてだけでなく、子供の生活にも入り込んだ。たとえば、子供向けの芝居絵本や遊び道具には、歌舞伎の演目や主人公が取上げられていた。子供に向けの歌舞伎種の浮世絵「おもちゃ絵」が現在でも多数残っている。中には、ノリやハサミで切り貼りして組み立てるおもちゃ絵もあり、子供では到底作りあげることができないような大規模なものは大人も楽しむことができた。(a.)