B5 綯い交ぜられた袴垂と鬼童丸.

笛澄月白浪」

絵師:豊原国周 判型:大判錦絵3枚続
上演:明治8年(1875)11月 新富座
所蔵:舞鶴市糸井文庫  所蔵番号:01ル64.

【解説】
 明治8年11月
東京新富座で上演された「初深雪佐野鉢木」の中幕「 笛澄月白浪 」を描いた役者絵である。中央の人物は笛を吹いている頼光の坂東彦三郎〈5〉で、左には袴垂保輔の尾上菊五郎〈5〉が配されているが、右には鬼童丸の中村芝翫〈4〉が描かれている。この演目では、保昌・袴垂の説話と鬼童丸説話が綯交ぜられているのだ。
 歌舞伎では、文政5年(1822)市村座「御贔屓寄友達」の中で、鬼童丸実は袴垂れ保輔という役名が出て来る。この時に出た「市原野のだんまり」が以降たびたび演じられるようになる。
 袴垂保輔と鬼童丸の関わりが深くなった背景には、江戸後期、曲亭馬琴の読本『四天王剿盗異録』(文化2年(1805))がある。この作品の中では袴垂保輔は妖術を使う盗賊として登場し、頼光一派に盗みを働こうとするが、大蛇や熊を自在に操る姿はもはや並の人間ではない。そして読本では、洞窟の中で保輔が鬼童丸と出会い、妖術を競い合う場面が描かれている。ここから、鬼童丸と保輔の妖術合戦を題材とした絵が多く創作され、またそれが歌舞伎の中で鬼童丸と保輔を習合させたのである。創作の世界で設定が膨らんだ結果原作にない能力を付与され、鬼童丸と同じく袴垂までも人間を超越した鬼と化したのである。(池a).

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文化2年(1805)『四天王剿盗異録』(立命館ARC hayBK02-0024