B0 保昌説話.

 四天王とともに酒呑童子討伐に同行した藤原保昌。摂津平井の庄に住して平井保昌とも。頼光四天王に対して、独武者と合せ称させる。彼自身は勇猛な武将であり、数々の武勇説話が伝えられる。しかし、酒呑童子退治においては、一旦、勅命をうけるも辞退して、その名誉を頼光に譲ることになる。
 その説話の一つ。保昌の弟の保輔は貴族身分でありながら盗賊となり、悪行の限りを働いた。彼が盗賊・袴垂と出会い、豪胆さで調伏する逸話は、いつしか保輔と混ざり合い、袴垂保輔という架空の盗賊を生むに至る。ある晩のこと、袴垂は衣服を剥ごうと伺っていると、ただ一人笛を吹きながら悠然と道を歩く保昌のみつけた。しかし、保昌にはつけいる隙が全くない。袴垂はとうとう保昌の邸までついていってしまう。保昌は袴垂を呼び入れて、衣を与えて戒めたという。
 一方、頼光説話の中で登場する妖賊鬼童丸がいる。捕えられ頼光の弟頼信の館に繋がれていた。頼光が強く縛るように勧めるが、鬼童丸は逃げ出す。頼光が鞍馬に詣でることを知って待伏せした鬼童丸は、市原野で牛を殺し、その腹の中に隠れ頼光の命を狙う。怪しんだ渡辺綱が矢を射ると、鬼童丸は躍り出て頼光に斬りかかっるが、頼光に首を落とされる。
 この説話は、歌舞伎の中で「市原野だんまり」となり、人気のを得た。そして、いつのまにか、袴垂保輔と鬼童丸が融合し、「袴垂、実は鬼童丸」という役までも生んでいる。そして、やはり保昌の手柄は、頼光の武勇談へのと吸収されてしまった。
(池a).

【参考図】
『武者実伝記』「平井保昌」

編著者:歌川国芳(画) 判型:中本1冊
出版:安政4年(1857)頃
所蔵:立命館ARC  所蔵番号:arcBK03-0082.