歌舞伎興行において、観客がまず出会うメディアは宣伝材料である。芝居は興行である以上、観客を劇場へ呼び込む広報活動が不可欠であり、歌舞伎は早くから多様な宣伝メディアを発達させてきた。 その原初的な形は、声や鳴り物による「触れ」であった。劇場の矢倉太鼓が鳴り響けば、人々は芝居の始まりを知り、芝居町は熱気に包まれた。やがて文字や絵による視覚的宣伝が発達し、劇場前には絵看板や高札、招きなどが掲げられるようになる。なかでも絵看板は、上演演目や人気役者を華やかに描き、人々の期待を高めた。こうした情報をより広く伝えるため発達したのが番付である。番付は出演者や演目を一覧化した歌舞伎独自の印刷媒体であり、近代以降は印刷技術の発達とともにポスターやチラシへ展開していく。これらは単なる上演案内ではなく、役者人気や劇場の演出意図、その時代のデザイン感覚を伝える媒体でもあった。本来、これらの宣伝材料は興行限りの消耗品で、多くは廃棄された。しかし現存資料からは、当時の劇場空間の熱気や、人々が歌舞伎に寄せた期待をうかがうことができる。本節では、歌舞伎を彩り、人々を劇場へ誘った多様な宣伝メディアを紹介する。(戸塚)
3.1.宣伝材料
