4.6.0.曽根崎心中

歌舞伎「曽根崎心中」は元禄16年(1703)5月に初演された近松門左衛門作の人形浄瑠璃を原作とし、同年4月に実際に発生した心中事件を舞台化した作品である。現在上演される作品は宇野信夫による新脚色で、昭和28年(1953)8月に新橋演舞場で初演され、二代目中村鴈治郎と二代目中村扇雀(三代目鴈治郎・四代目坂田藤十郎)父子の上演によって再評価されることとなった。町人の純愛をリアルかつ情感豊かに描いた世話物の傑作として、昭和30年には、野澤松之輔の脚色・作曲で人形浄瑠璃も復活され、今日まで多くの人を魅了し続けている。
 主人公の徳兵衛は大坂内本町の醤油屋の手代で、遊女のお初と深く愛し合っていた。しかし徳兵衛の叔父は別の女性との縁談を進めており、その持参金の用意もあった。徳兵衛は縁談を断ってその金を取り返し、話を白紙に戻す。ここに徳兵衛の友人である九平次が現れ、商売のための金が欲しいと懇願されたために徳兵衛は実家から取り返した金を善意で貸してしまう。だが追い討ちをかけるように災難は続き、徳兵衛は九平次に裏切られて金を騙し取られた上に、詐欺師と罵られて無実の騙りの罪まで着せられる。名誉を傷つけられて社会的に追い詰められた徳兵衛がお初のいる天満屋を訪れると、お初は縁の下に徳兵衛を匿う。徳兵衛と時同じくして天満屋に現れた九平次がお初にも徳兵衛に対する中傷を聞かせると、お初は独り言に託して命をかけて身の潔白を証明する覚悟を縁の下の徳兵衛に問う。徳兵衛はお初の足首を自分の喉に当ててその問いに答え、二人は真夜中の曽根崎の森へと向かう。そうして二人は愛を誓い、共に命を絶って閉幕となる。
 最大の見どころは徳兵衛とお初が足で生死の覚悟を確かめ合う場面であり、緊迫感と切なさが押し寄せる。また、クライマックスとなる心中への道行は「この世のなごり、夜もなごり」という一節に始まり、二人が死へと共に歩む道のりを詩的に描写しており、文学的にも高く評価されている。
 曽根崎心中は、社会の理不尽に潰されてゆく人間を描きながら、その中で愛だけが純粋に輝き続ける構造を持つ。心中は絶望の末の選択であると同時に、二人にとって愛の完成でもある。近松が町人の現実から生み出したこの作品は、三百年を超えた今も色褪せない。
(元田o)

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