3 新板信田会稽夜討

無款(鳥居派)
宝永8年(1711)正月ヵ
資料番号:arcSP02-0051

 本作品は、「信田」の敵討物語に仮託して赤穂浪人による討入事件、いわゆる忠臣蔵の討入りを描いた作品で、現存、忠臣蔵の討入を描いた絵画としては、最古の作品である。出版界や演劇界ではこの事件を受けて、元禄16年(1703)正月には早速、作品に取り込み出版・上演をしようとするがすぐに、公議によって禁止された。事件を廻る後始末の大凡の決着が付いた宝永7年(1710)なかば以降、ようやくこの事件が描かれるようになるが、浮世絵としては、この作品が唯一この時期のものとして残る。
 なお、江戸時代は、政治的な事件を直接表現することが禁止されていたため、他の物語世界に仮託して表現するのが常套手段であった。描かれる人物たちには役者の紋がはいっており、当時の役者達に見立てている。紋から役者を特定していみると、江戸劇団に所属する大物ばかりである。なかでも吉良上野介を実悪の第一人者山中平九郎、大石内蔵助は、市川団十郎である。吉良を大悪人とする感覚が庶民の間で定着してしまっていたことがうかがわれる。