巻3.05 綱の怒り

いららきの歌の中で「都のさかな」と詠み込まれた頼光一行は憎らしく思ったが、何とか心を落ち着かせる。なかでも綱は、目に見えて憤り、今にもいららきに掴みかからんとするところを、頼光に目で強く制せられるほどであった。

しかし、日頃は通力自在を誇る眷属たちも、毒酒で酔っては判断力も鈍り、ついには主・酒呑童子の前でも無礼な行いを繰り広げ、宴の席は惨々たる有様になった。

ちょうど、回されていた盃がいららきの前に来た時、綱が扇を手に舞い、拍子を踏み鳴らしながら三度歌った。                         としへたる おにのすみかに 風あれて 花はのこらす ちりやうせなん          先ほどのいららきの歌に対する意趣返しの歌を、酒に酔い果てた鬼たちは聞き咎めることもなかった。

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    酒の席で綱が舞う場面。