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作品名:『嘘無箱根先』巻二
作者:七珍万宝
絵師:歌川豊国
書型:2冊 (合1冊)
出版:寛政1年(1789)
所蔵:国立国会図書館(NDL-2542784)ここでは、人間に敵わぬと逃げ帰っていた妖怪たちが、人間に認められるように努力する作品を紹介する。黄表紙『嘘無箱根先』では、箱根の先に住む妖怪たちが先ほど紹介した作品と同じように人間に勝つために江戸へと向かう。妖怪たちは、案の定江戸のことがわからず、失敗ばかりを繰り返してしまう。しかし、ここで妖怪たちは諦めず、人間にギャフンと言わせて自分たちの存在をアピールする方向へと目標の舵を切る。江戸の人々にとっては憧れの存在であった、「大通」を目指すこととする。
「大通」とは、江戸の粋な人のことであり、特に遊里・遊芸などの方面の事情によく通じている人のことである。本作品を見ていただくと、妖怪たちは髪型を本田髷を少し低くする「本田崩し」にし、着物より丈の長い羽織である「長羽織」を着たりと、当時の通人の間で流行っていたファッションをしている。しかし、妖怪たちは格好を真似しただけの「似た山通人」であり、「大通」とはほど遠い。結局、身支度に時間がかかりすぎてしまったため、妖怪たちが町へ出かけようとした時には朝日が昇り、怖くなった妖怪たちは箱根の先へと逃げ帰ってしまい、この黄表紙は終わりとなる。
田舎に住み、時代遅れのものとされる妖怪たちが、人間に認められるために「大通」を目指す中で失敗や勘違いを起こすことは笑いを誘う。その笑いには、都会に住む者としての優越感がにじんでいると考えられる。(池田)参考文献
『だい‐つう【大通】』、 デジタル大辞泉、 JapanKnowledge, https://japanknowledge.com(参照 2021-02-01)
アダム・カバット『江戸滑稽化物尽くし』、講談社、2003年
B1-7 江戸の「大通」への憧れ