F1 隠亡堀.

作品名:「神谷仁右衛門」「おいわ」
上演:嘉永元年(1848) 9月 江戸・市村「当三升四谷聞書 」
絵師:歌川芳艶
判型:大判錦絵 
所蔵:立命館ARC(arcUP5734).

市川団十郎演じる神谷仁右衛門と市川小団次演じるおいわによる第三幕最大の見せ場、戸板返しの場面である。前の場面に触れておくとおいわは、按摩宗悦が調達した薬を仁右衛門に顔にかけられ、見るも無残な顔になってしまう。図中では、右手に持った守り袋をかろうじて見れる右目でぎらっと見つめている。実際の歌舞伎上では「うらめしい伊右衛門どの」と仰々しい演技をするのだがその恨み節が伝わってくる。お岩の顔を青色にしたのは薬によって人間非ざる姿になってしまったという表現なのだろう。自分に都合がいいようにふるまう仁右衛門とそれに翻弄され妖怪になったおいわ。その対比もまた見たものをあっと言わせるものだろう。(澤野)