本学では、京都に立地する大学として、「文化」を研究のキーワードに総合大学たる立命館の特徴を打ち出せるユニークな研究領域の開発を目指し「京都や日本文化をデジタル技術で科学する」というコンセプトによって、一定の評価を得てきました。しかし、これらの研究成果、研究活動が、より広く社会に寄与しているかというと未だしの感を拭えません。本研究では、大学の枠内に留まりがちな人文系の研究のアウトリーチを今後の大学の最優先の課題とし、他分野の先導役として位置づけるものであります。学内だけでなく、人文学研究の有り方を革新する役割を担わせたいと思います。
本学が1995年以降の研究高度化中長期計画で進めてきた「文化」化プロジェクトの最終フェーズに位置づけられる。文理融合、研究エンターテインメント、デジタル・ヒューマニティーズと、デジタル時代に呼応してユニークに発展してきた本学の文化研究は、現在、海外からも高い評価を得ている。しかし、これらの研究は、個々の研究グループが個別の興味によって進めてきたもので、多くの研究発表や論文を残すことができたが、どれだけ実社会、実生活に実りを与えたのかというと疑問を呈さざるを得ない。本研究は、これまで本学が行ってきた文理融合型研究やデジタル人文学の研究とは異なり、文化資源を活用した地域との連携と産業のイノベーション、国際日本文化理解への貢献など、文化研究の「社会貢献」をどのように進めていくかという、新たな課題の解決を目的とする研究である。
人間は、政治・経済活動の中で生活が保障され、そこに余力が生れることにより「文化」活動が活発化していく。通常パトロンが、余力としての財力によってスポンサーとなり、場合によっては、直接的に研究活動に貢献する。さもなければ、研究者たちは競争型公的研究資金を獲得し、社会からは隔絶した世界の中で資金は消費されていく。これは「行止り」型研究活動であって社会還元は極めて小さい。しかし、グローバル時代においては、「文化」の研究活動自体が自立して、場合によっては経済的な豊かさをも生んでいく必要があるし、実際、それが可能となってきている。人文学研究の各分野でもようやく社会に窓口を開こうとする試みが始っているが、本研究では、本学がアート・リサーチセンターが蓄積してきたデジタル研究資源を活用して、どのように社会に貢献し新しい文化活動の循環を作っていくのかを、具体的なプロジェクトのなかで実践していくことで「社会貢献」の軌範を提示することができる。
特色は、①デジタル・アーカイブ技術の裏付けがあり、情報発信技術の開発・応用が可能となるメンバー構成である。②京都という文化の集積地において、デジタル技術との連携を実現し、伝統文化の現代生活への導入を容易にし、地域産業のイノベーションを実現できる(地域貢献)。③欧米を中心とする日本文化資源を所蔵する博物館や美術館などの機関、個人からのコレクションをデジタル技術で連携させ、国境単位、地域単位で断絶していた文化資源情報を統一的に活用することで、海外研究者らのあらたな研究活動のフィールドを醸成できる(国際貢献)。