源語秘訣抄 げんごひけつしょう
写本、大本、1冊、江戸時代

『源語秘訣抄』は、一条兼良が子息・冬良に与えた『源氏物語』の注釈を記したものである。兼良は源氏物語に関する多く注釈書を著し、その中の一つ『花鳥余情』を記した後、秘伝として伝えたのが『源語秘訣抄』である。本文に「色々の説あり、いつれも皆あやまり也、信用すへからす」(榊巻)、「旧説さま/\にいへり、皆証拠もなき事也、もちゐるにたらす」(乙女巻)など旧説に対し否定する箇所もある。

『源語秘訣抄』は以下二種の奥書によって伝本を分類できるが内容はほぼ同一である。

  • 唯伝一子之書也不可出閫外付嘱中納言中将畢、
    文明九年二月吉日 老衲覚恵草名
  • 唯伝一子之秘説也堅可禁外見者也 後成恩寺御奥書同御判

前者が冬良相伝本、後者は別系統で人から求められた折にことわり書きしたものとされる。

本書は江戸時代に書写されたもので、表紙は水玉模様で左上に短冊形外簽のみで一面九行書きの袋綴じである。縦26.5cm×横19.2cmの一冊、全二七丁で遊紙が巻頭末に一丁ずつある。蔵書印は西園寺蔵書、西園寺文庫である。
秘事の項目は「源氏服有無事」(桐壺巻)、「揚名のすけの事」(夕顔巻)、「侍童着指貫事」(夕顔巻)、「おきなもほと/\まひ出ぬへき事」(花宴巻)、「大将かりの随身事」(葵巻)、「ねのこ三か一の事」(葵巻)、「さるもしいませ給への事」(葵巻)、「とのゐ物の袋の事」(賢木巻)、「まくなきの事」(明石巻)、「わか君のたすき引ゆひ給へる事」(薄雲巻)、「をしかいもとあるしの事」(乙女巻)、「水鳥のくかにまとへる事」(玉鬘巻)、「高巾子の事」(初音巻)、「ひのよそひの事」(胡蝶巻)、「ついたち比の月の事」(藤裏葉巻)の一五項目に加え奥書の後さらに「かつらの院の事」(松風巻)が追補されている。本文は刊本に近いが、項目列挙後の刊記は付されておらず、本奥書の後に
右一帖母公<微妙浄院殿>御真筆也
可秘蔵者也
 明和五年九月 春宮大夫(花押)

と付け加えられている。この春宮大夫に対応する人物としては官職、花押から西園寺家三〇代目西園寺賞季の可能性が高い。また、この書写奥書にある微妙浄院とは賞季の母、今出川伊季の娘と推定され、このことから賞季が微妙浄院の持つ『源語秘訣抄』を写し、西園寺家に所蔵されたものかと考えられる。