勝々山

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かちかちやま


画題

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解説

東洋画題綜覧

を主題とした古いお伽噺で、教訓画として画かれるものが多い。

昔、田夫のとし老たるが、山田耕すありけり、妻の嫗餉を送り来たるに、狸これを窃みくらひつ、翁腹立てやがてその狸を生捕り家に牽もて帰りて梁につりあげたり、さて妻の嫗にいふやう、この狸を羮にして食ふべし、よくとゝのへてわが帰るを待ち給へといひて、亦、野良に出づ、嫗麦を舂て歌をうたへば、狸哀みて、おのが命だに助給はゞ代りて麦を舂かんといふ、いと不便なれば牽をときておろすほどに、狸忽ちに嫗を噉ころしてその宍を羹とし、やがて化て嫗になりてをり、翁、草野より帰りて、狸羮を啜らんとするに、狸本の形をあらはして嫗食の翁よ、竃下なる骨を見ずやとあざみ笑ひつゝ外かたへ走り出で失せければ、翁は箸を擲ち嫗が骨を見て泣ことかぎりなし、又こゝらの山にとし経る兎ありけり、翁がいたく号哭〈なけく〉声を聞て訪ひなぐさめ、吾儕嫗の仇を報いてん、まづ豆を熬給へとて、熬らしつ、これを笥にもりて山へともてゆくに、狸その香により来て、われにも豆一握ばかり得させよといふ、兎ははかりたる事なり、向なる山まで柴を負ていかばといへば、ともかくも宣ふ事はそれがし、先づその豆を得さし給ひねと、せちに乞にけれど、柴を負して後にこそとて、あまたなる柴を負はし、これを先へたて、ひそやかに燧をとり出で、火をうちつくるに、狸その音を怪しみて、あれは何ぞと問へば、かち/\山なりと答ふ、その火はや柴に燃えつきたりければ、狸又問、兎こゝなん、ぼう/"\山なりと答する程に火ははや燃えひろがりて狸の背を焼にければ、いたく叫びてふし輾び、辛うじてふり落しつゝ逃うせにき、兎、又味噌に蕃椒をすりまぜたるを膏薬にこしらへ笠をふかくし火傷の薬なりとて売けり、狸は背を焼爛らかされて、せんすべなさ折なれば、よき薬ならんと思ひて背の火傷へつけさす、いとゞ爛たる痍へ蕃椒を塗附られ、ほとりて痛きこといふべくもあらず、そこら輾び狂ひて泣くことかぎリなし、さて二十日あまりを経て狸の火傷愈たり、兎又船を造る、狸これを見てその船何にかすと問ふに、漁せんと思ふなりとて欺けば、狸うらやましく思へども、このみちの匠のわざには疎なり、われは土もて造らんとて、土船を造りて兎もろ共に漁のかたへ漕ぎいだすに狸の船沈みて忽ち水に溺るゝを、兎は檝をとりのべて、これをうち殺し翁が為めに嫗の讐を復いしといふ事、按ずるに抱朴子に山中卯日称丈人者兎也といへり、これに因りて兎を田翁の友とするものか。  (燕石雑志)

(『東洋画題綜覧』金井紫雲)